「ゴゴスマ」の惨事はスタッフのいい加減な仕事が原因
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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スタッフも司会者も他の出演者も、誰一人として内容を正しく理解しないまま放送してしまったとしか思えない、あまりにみっともない生ワイド番組を視ました。11月30日のTBS系(CBC中部日本放送制作)「ゴゴスマ」です。
それは小池東京都知事が打ち出した「政党復活予算」廃止についてのコーナーで起こりました。司会の石井亮次アナが「次に政党復活予算について」と言い始めた途端になにやらオタオタしはじめます。
石井「政党復活予算というのは、案があって予算があって、案がとおって予算が付く。案があって予算が付かない、でも200億というこういう予算があれば自由に使える。落ちた案も復活できて・・・。そのう・・・。あのう・・・。ちょっとごめんなさい。全然わかんなかったですね、今。」
ほかの出演者から「ぜんぜんわかんない!」と一斉ブーイング。
石井「一回案として落ちたものを有権者の方が直接お願いしますと都議会議員に言って、それ、やっぱり必要だな、ってことで・・・。石塚さん、やっぱり説明していただいて・・・」
と石塚元章CBC論説室長に助けを求めます。
石塚「復活折衝は原案を作った元の部局がお願いするんですけど、東京都のこれは政党復活なんで、政党がその枠を持っている。これが200億ぐらいある。わかったかな。」
と、こちらもかなり舌足らずな解説。次に古川枝里子アナがパネルを使って、
古川「業界団体などが都議会に陳情やヒヤリングをして知事に復活を要望する。知事が、じゃあ200億の復活枠を設けてあげるから200億の中で納めなさいというので・・・。小池知事はその復活枠をやめようとしている。」
と、こちらも不充分かつ不正確な説明。さらにコメンテーターである東国原英夫・元宮崎県知事が口を挟んでますます混乱が深まります。
東国原「表向きは、予算編成の段階で、ここは足りなかったよね、ここは余ったよね、というのを調整するっていう枠があるんですよ。これが復活枠なんですよ。」
そいう話ではないのでは・・・。
ここで石井アナはようやく見つかったという一枚のフリップを取り出します。示されたのは、
「東京都民」→「各会派」→「都知事査定」→「予算原案」
・・・という構図で、予算編成は知事側の作業であるという前提がなく、予算編成には政党各派が加わるものと誤解を与えかねないものでした。
石井「都民の要望を直接聞いた政党各会派が案件について都知事の査定を受け、知事によりカットされた案件を、都民がやってくださいよと言った時に政党復活予算200億の中から使ってできるものです。」
この説明にタレントの松本明子さんがすぐに反応、
「それは都民にとっていいことじゃないですか」
と言い出します。これを受けて、ジャーナリストの須田慎一郎さんが、
「都も知事も直接都民とつながっていないが都議会議員は直接つながっており、都民の要望やニーズをより的確に反映できるという建前で200億円が確保されている」
と解説。そしてスタジオの論調は妙な方向へ流れますが誰もブレーキをかけられません。
石井「この予算があるのは悪いことではない、ということですね」
東国原「これは正当な政治行為なんですよ」
石塚「誰が都民にいい顔をできるか、政党から小池知事に代わるということ」
東国原「さっきからずーっと言ってるんだけど、悪じゃないのよ、悪じゃないの」
最後は女性漫才コンビ、ニッチェの近藤さんが、
近藤「予算は一度決めちゃうともう増減できないから復活予算があるってことですね。だから必要なものをちゃんと通す議会を作ればいいだけの話じゃないですか」
と発言すると、全員が、そうだ! そうだ!の大合唱で大いに盛り上がったのでした。
常識とは思いますが、予算を作り執行するのは知事の仕事と地方自治法で決められています。都の予算は小池知事の責任と権限で作成し決済した予算案を議会に提出します。これを審議の上で議会が承認することで予算は成立し執行されます。
【参考】民放キー局のジリ貧化を食い止めるには何か必要?
知事が議会における各政党との議論を受けて予算を修正することも当然あります。ニッチェの近藤さんの発言とは違って金額の増減修正も可能です。
では政党復活予算の何が問題なのか、まず小池知事の発言。
小池「都議会は不透明なことが多く、ブラックボックスのようでございます」「政党が最後に『白地小切手』で使えるような予算を持っていたというのは驚くべき状況であります」
テレビでおなじみの識者たちは、
岩井奉信(日大教授)「与党が利益誘導できるブラックボックス」
北川正恭(元三重県知事)「信じられない。予算の執行権は知事にある。議会への丸投げは知事の職務放棄」
浅野史郎(元宮城県知事)「知事から政党へのお歳暮。行政と議会のなれ合い構造」
田崎史郎(時事通信・特別解説委員)「政党は(予算修正を)知事に要求すれば良い。まだこんなことをやっているのか。国政では考えられない」
伊藤惇夫(政治アナリスト)「ほとんどが自民、公明。知事と議会の癒着。別枠予算はおかしな話で二元代表制の原則からはずれている」
と散々です。「ゴゴスマ」のみなさんとはまったく見方が違います。
問題を整理するには、TBS「ひるおび!」での八代英輝弁護士の発言を引用するのがわかりやすそうです。
八代「予算編成は知事の専権事項ですが、その一部をお裾分けしている。議会運営をうまく行かせるために官僚と議会が結託して、専権を少し差し上げますから、あまりうるさいこと言わないでね、っていうシステム」
政党復活予算枠は200億円の割り振りを誰がどうやって決めているのか不透明で、小池知事いわく「白地小切手」だそうですから実態は長年、与党の思うままだったとうかがえます。
さらに政党と業界団体などとの癒着、知事と政党、あるいは復活で予算を獲得したい官僚と政党との癒着の怖れもあります。かつてテレビで猪瀬直樹元都知事が、官僚の中には大事な案件を知事に上げずに、政党の大物議員のところに行く者がある、という発言をしたことがあります。知事査定で落とされた予算を政党にすがって復活枠で実現するのもこの構図なのでしょう。
ブラックボックスをなくし、都議会改革、都政改革を進めるというのは小池さんの1丁目1番地。政党復活予算の廃止は、不透明な入札システムなどの利権構造潰しにつながる第一歩という見方もあるようです。
テレビで様々な見解が語られることになにも異論はありません。しかし今回の「ゴゴスマ」での政党復活予算に関する発言はほとんどが知識不足や理解不足による不正確な発言です。
MCの石井アナはおそらく必要な情報を与えられないままカメラの前に立たされ、数百万の視聴者の前でしどろもどろになりました。正しい情報を持たない司会者は出演者たちの発言が的確なのか、不正確なのかも判断できず、ただ自信のない言葉を吐きながら流れに任せるしかなく、番組は半ばアンコントロール状態のまま漂流しました。
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その非は石井アナをはじめとする出演者たちにあるのではなく、非はスタッフサイドにあるように思います。
*スタッフは政党復活予算について充分な情報を仕入れ、正しく理解していたのでしょうか。
*それをMCである石井アナ、古川アナにきちんと伝えたのでしょうか。
*ほかの出演者にも打ち合わせで基礎的な情報を与えたのでしょうか。
*視聴者に正しく理解してもらえる構成や演出やコメントを考えたのでしょうか。
*番組が迷走を始めた時に適切なコントロール処置をしたのでしょうか。
同種の番組経験者としては、どれも充分に為されていないからあのようなみっともない状況に陥ったのであって、なにもわかっていないスタッフが、わからないまま、いい加減に仕事をしたから起きた「惨事」という、番組制作者としてもっとも恥ずべき状況だったのではと推察せざるを得ません。
もうちょっとしっかりした仕事をしないと、テレビの情報が世間から信用されなくなり、テレビは捨てられます。
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