<NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」>ユーチューバー、プロゲーマー・・・新しい仕事に未来はあるのか
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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3月19日放送のNHK 『プロフェッショナル 仕事の流儀 新しい仕事スペシャル』を見た。取り上げられたのはユーチューバー・HIKAKIN(28歳)、プロゲーマー・梅原大吾(36歳)、データサイエンティスト・河本薫(51歳)の3人である。
日本トップのユーチューバー・HIKAKINの容貌は、そこらへんの兄ちゃんである。そのそこらへんの兄ちゃんが「制作した動画の総再生回数79億回以上」だそうだ。Youtubeでは、この再生回数に応じて広告費が払われる。
ユーチューバーはこれまでのテレビが視聴者として相手にしてきた「皆さん」を相手にしていない。画像を見る個人「あなた」を相手にしてこのPVを稼ぐ。その点でラジオと似ているが、ラジオより圧倒的に媒体の新しさで勝る。
HIKAKINに休みはない。1年365日、24時間、仕事をしている。企画から出演、撮影、編集までを一人で行う。企画は基本的に思いつきである。思いつきが悪いと言っているのではない、筆者はどちらかというと、酒に酔って思いついた企画を後に推敲することなくそのままテレビ番組にしてきたタイプの作家である。そのため打率は2割を切るだろう。
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しかし、HIKAKINの打率はそれを遙かに上回る。違いは何かというとHIKAKINが人生を切り売りする映像をつくっている点である。通常人生を切り売りしながら画面に出るのはつらい。HIKAKINは人生どころか人格さえ切り売りしているように思える。人格を切り売りしていくとアイデンティティ(自己同一性)が崩壊する。自分がなんだか分からなくなるのである。今のところ、そこを持ちこたえてるというのはすばらしく情緒の安定した人なのであろう。
HIKAKINは「元気な自分を見てもらい、クスッと笑ってもらうことを目指す」と発言している。そういう意味で既存の職業との類似を考えればアイドルと近い。アイドルにはその後芝居に行くとかノ選択肢があるがこのユーチューバーという新しい仕事にはのちに何があるのだろう。
プロゲーマー・梅原大吾は大変禁欲的である。収入は時に1億円になるゲーム大会の優勝賞金やデモンストレーションへの出演料だろう。既存の職業で似ているのは碁打ち、将棋指し、プロスポーツ選手である。しかし、プロゲーマーの世界はまだ未熟で、碁打ち、将棋指し、プロスポーツ選手が、後にコーチとなったり対局料で稼いだりする仕組みがない。プロゲーマーは「eスポーツ」のアスリートであるから加齢とおもにその技は衰える。
プロゲーマー・梅原大吾にも、「ときど」という3歳年下のライバルがいる。「ときど」には勝てない日がやってくる。梅原は「見ている観客を喜ばせることが、この仕事のゴール。当たり前でない、誰もが意図しない予想外の戦い方を見せることで、観客は楽しむ」と発言している。だが負けても楽しい試合を見せる者は生き残るという論理がスポーツの世界で成り立ったことはない。勝者にしかスポットは当たらない。
若い人が憧れている特異なプロゲーマーに『ゲームセンターCX』(フジテレビ)の、「よゐこ」有野晋哉がいる。これはユーチューバーに近く、ひとつのジャンルである「ゲーム実況」であろう。
河本薫(51歳)は、今世紀最も魅力的な職業と称される「データサイエンティスト」である。ビッグデータと呼ばれる日々膨大に生まれるデータを分析し、ビジネスに革命を起こすアイデアを生み出すのが仕事だが、この仕事は人工知能(AI)に奪われてしまうのではないかと筆者は思う。
AIの解析方法は人力に比べ、圧倒的に速い。河本はそこまではAIにやらせ、その先の理解、応用(その時々で使うべきかどうかを最後に判断するなど)は人間がやるというのだが、果たしてそうか。筆者には、それが出来るAIが生まれることこそがAIの完成形だと思えるのだが。
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