貴乃花が屈した相撲協会「一門制でガバナンス」という暴論

社会・メディア

両角敏明[元テレビプロデューサー]

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テレビで今回の貴乃花騒動をフォローしていると、日本相撲協会の「ガバナンス」への無理解を指摘する声が多く、それはしばしば「嘲笑」のようでさえあります。例えば、ある日のフジテレビ系『とくダネ!』におけるコメンテーターの発言です。(敬称略)

古市憲寿 「協会ってガバナンスって言葉をわかって使ってるんですかね」

花田虎上 「日本語で言った方がわかると思います」

三浦瑠麗 「ぜんぜん違う意味だと取っている気がするんですよ」

と散々ですが、この新しい一門制について日本相撲協会はこう説明しています。

「任意の組織である一門に助成金を支給していることは問題があり透明性を図る必要があると考えた」

「一門の位置づけを見直すことを通じ暴力問題などの解決に強く取り組む」

「任意の組織」とは協会の正式な組織ではなく、派閥もしくは仲良しの集まりみたいなものです。もちろん定款に一言もありません。そんなところへ助成金を渡していたのですから協会のガバナンスもコンプライアンスも元々存在していなかったことになります。協会の示した新たな一門制に対しTBS系『ひるおび』の八代英輝弁護士は以下のような主旨の発言をしています。

*いわゆる派閥を資金管理窓口にするのは公益法人にあり得ない方策

*(暴力問題の)ガバナンスの窓口にするのは協会自体が出来ないと言っているのと同じ

*相撲協会に大きな不健全性を残してるのは一門制

八代氏ばかりか、一門制については様々な番組のコメンテーターからも疑問の声が噴出しています。ところが相撲協会は違います。

「7月26日の理事会で、一門についての規程を整備する件を議題に諮り審議しました。規程案を今後の理事会に諮ることにしていました」

「一門」という個人的な集まりに協会の正式な機能や権限を持たせるというのは時代に逆行する考え方ですが、この理事会では、全年寄は五つの一門のどこかに所属することとし、その期限を9月27日としたというのです。しかし、無所属を望む年寄の扱いなどの詳細は未検討で、結局、この日決めたのは「規程文と細目は今後の理事会に諮る」ということでした。ならば「諮る」段階なのに年寄が所属一門を決める期限を9月27日と定めてしまうのは理屈に合いません。さらに、この日の理事会について協会広報がこんなことを公言します。

「理事会で決まったことを文書にして各一門に渡すことはしていません。公表すべき内容ではないことから、規約としても載せていません」

これを解説したテレビのレポートでは、

「執行部としては発表事項ではないんですよ。理事会の決定事項ではありますけれど、年寄総会でも発表されいませんし、貴乃花親方だけが知らされていなかったことではありません」

細部の詰めもなく、規程文案すら存在しない、今後「諮られる」はずの重大な新制度が、いつの間にか理事会で「決まったこと」とされます。それでいて「文書にされず」「公表されず」「年寄総会でも発表されない」のに、一定の関係者には伝わり、実態が進んでいきます。ガバナンスの欠片もない決定過程です。

【参考】<日本スポーツ協会が調査>ボクシング連盟よりひどい競技団体が多数

どうしてこんなバカなことが起きるのか・・・。生煮えの決定を理事会出席者から必要な人にだけ「決定事項として口伝え」で伝播して行ったとしか考えようがありません。ならば、どの一門からも伝える必要のある人ではない貴乃花親方に伝わらないのは当然と言えば当然です。

協会広報の芝田山親方は貴乃花親方に阿武松親方などが説明したと言っています。しかし、阿武松親方は協会理事ですが担務は審判部長ですから、協会の決定事項を正式に貴乃花親方に伝える立場でないことは明らかです。他の親方たちも同様であくまで個人的な会話に過ぎません。

となると、これほど重要な制度変更を、協会は貴乃花親方へはもちろん、その他の年寄に対しても正式な方法で伝達せず、おそらくは一門を通じた口伝え、いわば個人的な会話による連絡で制度の実施が始まっていることを協会の芝田山親方が認めたことになります。

ホームページ上で日本相撲協会の組織を見ると、相撲部屋や年寄を統轄管理するセクションはありません。おそらくは、長らくその役割の一端を○○一門という存在に委ねてきたのではないでしょうか。人と人のつながりで物事を処理する昔からの習慣があり、重大なことでも口伝えで済ましてきたことも多いのかもしれません。しかし、言うまでもなく現代の法人組織ではあり得ない事です。日本相撲協会という組織は、時とともに一般社会の常識との乖離が拡大し、その遅れ具合は、もう自分たちでは手に負えなくなっているのではないでしょうか。

年寄は誰もが一門に属さねばならないという新制度の発想こそが、いまだに「仲間内口伝え社会」を捨てられないガバナンス不在の極めて古い体質の表れのように見えます。もしそうなら、相撲社会は大幅に外部の血を入れるか、自分たちから外へ出て世の常識を吸収するか、どちらかの道を選ぶしかありますまい。

「協会所属員にして、引退・解雇・除名または脱走した者は、再び協会に帰属することができない」

相撲協会の憲法である定款第九十六条です。「脱走」とまであるのがいかにも相撲社会で笑えますが、一度村から出た者は、けっして二度と村には入れないとわざわざ明記しています。以下は貴乃花親方の実兄、元横綱・花田虎上さんが村を出た時についての発言です。

「私が辞めたいと思ったときに、(協会に残るなら)このままでは絶対にダメなので2年くらい他の会社に就職したい、という条件を親方に出したが無理と突き返されました。協会をほんとに変えるなら100年かかる、と言われるんですね」

ガバナンス不在の方法でガバナンス強化を図る哀しいような滑稽さ。時代の常識を学ばぬ相撲協会組織が100年持つわけはありません。

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