<佐村河内守“作曲・障害偽装問題”の本質>「見抜けなかったことが問題」ではなく「裏を取らなかったことが問題」だ。

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家]
2014年2月16日

 
佐村河内守氏の「作曲・障害偽装問題」。政治家におけるスピーチライターとか、漫画家におけるアシスタントとか、これは分業の問題であって、今回の別人作曲問題は論点が全く違うであろう。
名前を書くのも腹立たしい佐村河内守氏の「作曲・障害偽装問題」に関し、TBSの『サンデーモーニング』が、鳩山由紀夫元首相(平田オリザが参画した)やアメリカ大統領のスピーチライターの存在を紹介しながらピントのずれた特集を組んでいた。むしろこれは「食品偽装問題」や「大学教授の論文盗用問題」や「生活保護費不正受給問題」と同列に論じるべき事案である。つまり「ウソ」に関する問題なのである。
『サンデーモーニング』には、コメンテーターとして写真家の浅井慎平や作家の幸田真音が出演していて、感想を求められたが、ここは写真家として作家として、たとえ分業だとしても他人に作らせたら、自分はどう対応するか、創作家としての意見を聞きたかったのだが、前のVTRがピントがずれていては発言もしにくかったであろう。
佐村河内氏がメジャーになったきっかけは、NHKスペシャル『魂の旋律―音を失った作曲家』であるが、それ以前にTBS『ニュース23』でも扱われており、担当したのはどちらも同じフリーのディレクター・古賀淳也氏である。真の作曲者である、新垣隆氏によれば、佐村河内氏の全聾状態は“詐病”である。それが事実なら悪意を持って2級の障害者手帳を取得したことになる。古賀氏はこの“詐病”を見抜けなかったことにもなるのである。
「全聾という障害であることにして、別人に作曲させた交響曲を自作だと発表すれば、世の中の注目を集めるに違いない」この嘘で塗り固められた物語にディレクターは、すっかり乗せられてしまったのである。そして見る者もそれに騙された。となると、番組の制作者や視聴者は被害者なのか。少なくともディレクターはそうとは言いきれまい。
「見抜けなかったことが問題」なのではない。ジャーナリストの基本である「裏を取らなかったことが問題」なのである。こうした美談は、そもそもいちゃもんがつけにくいという構造を持っている。だからこそ「裏をとる」ことが必要なのである。