<業界歴35年の経験>テレビ番組は「足し算」ではなく「引き算」で作ってこそ成功する
高橋秀樹[放送作家]
2014年4月4日
テレビ番組を作る上で、私は自分の放送作家として30年以上の経験から、痛感していること。それは「足し算で番組を作ってはいけない」ということだ。つまり、「引き算でつくってこそ」番組はうまくいく。
新番組の放送が決まると、準備段階で、製作者は番組の中に山ほどの、放送時間に納まりきらないほどの企画を詰め込む傾向にある。この企画だけでは時間がもたない、と心配になるからである。本当はもたないのではなく、もつように考えていないだけなのだが、そこは想像力の翼が飛翔しないのが、僕を含めたテレビ製作者の愚かなところである。
ところで、山ほど企画を詰め込むこと自体は悪いことではない。そこから引き算で番組を作ればよいからである。大切なのは減らすものの見極めである。
分刻みの視聴率が悪いものを止めるというのは最も簡単な方法だが、この方法には誤謬が潜んでいる。これから数字が上がっていきそうな企画を止めてしまうことになりかねないからだ。
まず、減らすのは「観ていていやな感じがするもの」である。たとえば、「徹底検証」と謳ったコーナーがあるとする。ところがVTRの中身が徹底検証には程遠い。「観ていていやな感じだ」そこで考える、「徹底検証」という言葉をコーナー名から削ったら、視聴率は下がるだろうか。「下がらない」と判断したら、即刻「徹底検証」の文字を減らす。「観ていていやなこと」がひとつ減った。
こうやって番組を見渡すと「観ていていやなもの」が結構あることに気づくだろう。CM明けのしつこい繰り返し、印象でしか意見を言うことのできないコメンテーター、目障りなセットの飾り、スタッフのお追従の笑い声、余計なスーパーテロップ、やる気のないディレクターがつくったコーナー企画。こうした中から、削除しても視聴率に影響しないと判断したものを、早々に止めるのである。削除はスピードが肝心である。
「観ていていやなところのない番組」が出来上がれば10%は取れる、と僕は考える。
慎重にやらないと、減らすものの判断を間違えることがある。たとえば、「めくり」と言う手法がある。今やどこの番組でも見ないことのないフリップのめくり。当然、「めくってばかりいてどの番組も同じよね」と「観ていて嫌」に感じる人も出てくる。では止めればいいのか。止めてはならない。止めると視聴率が下がるからである。
めくりは、カメラの革新と同じ程度の重要さを持つスタジオ演出上の技術革新であった。
貼れてしかも簡単にはがせるスプレーのりの登場がこの技術革新を可能にした。
それ以前はフリップ上の文章を隠しておきたいときは「引き抜き」と言う紙芝居のような手法を使っていた。フリップは厚く重くなり、製作費が高く、出来上がりにも時間を要した。こうした欠点を、めくりは一挙に解決したのである。
めくりは一世を風靡した。多用されるようになって何でもかんでもめくりで隠すようになった。めくりをはがして見せる必要のないものまでめくるようになった。そして飽きが来た。つまり飽きが来たのはめくり自体の責任ではないのである。めくる必要のないめくりの多用。つまり演出家の責任なのである。
効果的なめくりは今でも視聴率をきちんと上げてくれるのである。だから止めてはならない。めくりと言う手法を持っていながら、深い考えもなしに止めようと言うのは、鉄砲をもっていながら、「私たちは武士、なぎなたと刀だけで戦うのだ」と言っているようなものだ。これではたとえも古いし、戦いにも負ける。
それから、僕が減らしたいのは「物件」と言う通称のついた、番組宣伝や、自社映画・イベントの宣伝である。これらを我が物顔にやるのは高い金を出して番組を提供しているスポンサーに対する背信だろう。
番組が成功したときの形とは、どういうものだろう。これは成功している番組を見ればわかることだ。必ず、ここはスタッフが楽できるだろうなあと思うコーナーがあり、全体としてのコーナー数は少なくなり、野太いものだけが残っている。
ひとつ、言い忘れたが、新番組が始まったときに僕が一番に提案するのは「全体会議は止めましょう」と言うことである。受け入れてくれた番組はみな成功した。