<無理は政府もわかってるんでしょ?>スゴすぎる新目標「温暖化ガス2050年80%削減」


石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]

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3月5日付け日本経済新聞朝刊で報じられているように、政府は4日、地球温暖化対策の基本方針を示す「地球温暖化対策計画」の原案をまとめた。

温暖化ガスを2030年に2013年比26%減らす中期目標を達成するための具体策を盛り込んだ他に、2050年に現在より80%削減する長期目標も明記した。

こんな「凄いコト」がとても達成できないことは、政府関係者の誰もがわかっていることだろう。それはさておき、この原案では、具体策として原子力発電所の再稼働や、再生可能エネルギー(水力・地熱・バイオマス・風力・太陽光)の最大限の導入を掲げている。

原子力正常化は政治判断で何とでもなるのだが、再エネはちょいと難しい問題を抱えている。再エネと言えば、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を契機として、日本国内では、特に太陽光と風力への大きな期待感が満ち溢れ始めた。

再エネは、2014年度での発電量の構成比で12.2%(水力を含む。水力を除くと3.2%)だが、これを2030年度に22〜24%にするのが政府目標。だがこれには、あまり語られていない大きな壁がある。

第一に、再エネ導入拡大に伴う費用負担増。政府試算では、2030年目標を達成する場合での2030年時点での所要費用は総額3.7〜4.0兆円。内訳は、地熱・水力・バイオマスに1.0~1.3兆円、風力・太陽光発電に2.7兆円。

第二に、再エネ導入拡大に伴う火力発電の稼働率低下と採算性悪化。風力・太陽光を優先的に発電させることにより、電力需要の低い時期には火力発電設備容量の約9割が抑制・停止。こうした火力発電の稼働率低下により、採算性悪化は確実。

こうした事態は、再エネ先行国である欧州諸国で顕在化している。経済産業省によると、例えば次の通り。

(1)スペインでは2000年代に入り、再エネ電源の導入を受け、年間の総発電電力量は伸びているものの、火力の設備稼働率が低下。スペインのある火力発電所の稼働率は、2004年に66%であったものが、2011年に23%まで低下。

(2)欧州各国の火力発電事業者は再エネ電源の大量導入等による火力発電所の収益悪化のため、投資計画見直しを余儀なくされている。

(3)ドイツ最大手のE.ON社は、2015年に会社を2分割し、2016年には発電(石炭・ガス・原子力)・国際エネルギー取引・上流部門を新事業会社にスピン・オフさせる計画を2014年11月に発表。

つまり、風力・太陽光の発電量が増加することにより、火力発電所の収益が悪化する可能性が大きいのだ。

風力・太陽光は、天候によって発電量が多くなったり少なくなったりする「自然変動電源」。その刻々と変わる発電量を見ながら火力による発電量を増減させ、全体の発電量を安定させるために調整する作業を「シワ取り」と呼ぶ。

しかし、この「シワ取り」を担う火力発電所の採算性が悪化すると、火力発電所が閉鎖に追い込まれ、結果として風力・太陽光の発電量を増やすことができなくなるという悪循環に陥る。

日本でも、世界でも、再エネは導入拡大の路線上にあるため、火力発電の「シワ取り」に係る調整用電源としての役割はますます大きくなる。だから今後、稼働率の低下が見込まれる火力発電所の維持や新規立地に必要な制度の整備が必須となる。

温暖化ガスを排出しない風力・太陽光を促進するには、温暖化ガスを排出する火力発電所が必要になるという話だ。

再エネを促進したいならば、火力発電所の投資回収システムを磐石なものにするための制度の再構築が必須になるはずだ。

 

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石川和男

石川和男(いしかわ・かずお)NPO法人社会保障経済研究所・理事長。1965年、福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。1989年、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業保安政策、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などに従事。2007年3月、経済産業省を退官。2008〜09年、内閣官房・国家公務員制度改革本部、東京財団上席研究員、政策研究大学院大学客員教授、政府の規制改革会議、行政刷新会議WGなどの委員を歴任。