<復活で快進撃>大相撲・遠藤関の「言い訳しない」美学


茂木健一郎[脳科学者]

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大相撲の遠藤関は、今場所好調である。11勝2敗と、全勝の豪栄道関には及ばないものの、普通の場所だったら優勝争いに絡んでいたかもしれない活躍を見せている。久しぶりに遠藤を「強い」と感じる場所になった。

周知の通り、遠藤の人気は横綱級で、ものすごい声援が飛ぶ。お茶漬けの懸賞がいつもついていて、「梅干し茶漬けの永谷園」などというアナウンスが名物。四股の時の身体がやわらかく、ほんとうに足が高く上がる。しかし、このところ、勝てなかった。

大声援を受けて土俵に上がって、しかし、案外あっさり負けてしまって、土俵に転がされてしまう。そういう遠藤を見て、「ああ、やっぱり、色男だけど何か一つ足りないんだなあ」と思っていた人も多いのだろう。むしろ、そこが「判官びいき」になって、ますます声援が集まった面もあるかもしれない。

ところが、今場所の遠藤は、普通に強い。普通に勝って、このままならばすぐにでも大関になるのではないかというくらい強い。一体何が違ったのか、と言えば、実は、怪我をした膝が治ってきた(まだ完全ではないけれども)ということらしい。

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相撲は、ぎりぎりのところでやるスポーツである。もの凄い力持ちどうしが、土俵上で、目にもとまらぬ早業で押し合い、つっぱりあい、相手を倒そうとする。そんな中で、身体の一部を故障していると、バランスが崩れて、力が入らず、あっけなく負けるということがあるのだろう。

しかし、負けがちだった間、遠藤関は「怪我をしているから弱いんです」などという言い訳はしなかったし、見ている側もはっきりとは気づいていなかった。相撲は礼に始まり、礼に終わる。言い訳をしないのが、美学である。

今、怪我に苦しんで弱くなってしまっているのは、照ノ富士関であろう。このまま横綱になるのではないかというくらい強かった時期から、何が変わったのかと言えば、やはり怪我。しかし、言い訳をせず、土俵に出続けている。

制度設計としては、怪我をゆっくり治せる間、休場しても番付が落ちない、というような考え方もあるのだろうが、大相撲の現場では、怪我は稽古しながら治す、という考え方もあるのかもしれない。いずれにせよ、大変なスポーツであることは間違いない。

今場所の遠藤関の復活劇には、長い間寒さに耐えていた梅がほころぶような、そんな素敵な気配がある。照ノ富士関にも、ぜひ復活していただきたいし、怪我に苦しんでいるすべての力士たちに、大きなエールを送りたい。

  (本記事は、著者のTwitterを元にした編集・転載記事です)

 

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)脳科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員。1962年10月20日、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程終了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を出て現在に至る。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。