<大森カンパニー「芝居コント」が面白い>芝居が出来ないものはコントをやるなかれ

映画・舞台・音楽

メディアゴン編集部
***
2017年10月7日、下北沢小劇場B1で、大森カンパニーが「芝居コント」と名付けた舞台「更地13」を見た。脚本は故林広志、演出はカンパニーの主宰者でもある大森博である。
本作は「芝居が出来る」と言うことがコントをやるにおいてどれだけの武器になるかを思い知らされる舞台だった。逆に言えば、「芝居の出来ないもの」がやるコントがどれだけ無残なものになるのかをも教えてくれる舞台でもあった。
「更地13」出演メンバーのプロフィールを見ておこう。
田中真弓はテアトル・エコー出身。「天空の城ラピュタ」のパズー、「ドラゴンボール」のクリリン、「ONE PIECE」のモンキー・D・ルフィなどで知られる押しも押されぬ大声優である。彼女が声優として成功した背景は芝居を勉強したことにある。
山口良一は最高視聴率39.8%を取った「欽ドン!良い子悪い子普通の子」のイモ欽トリオ・ヨシ夫である。佐藤B作率いる劇団東京ヴォードヴィルショーで芝居の修行を積んだ。欽ちゃんにしごかれたので笑いのツボも心得ている。老練だ。
天宮良はミュージカル俳優を志し、1984年にドラマ「昨日、悲別で(倉本聰脚本)」の主役オーディションに合格し、デビュー。1985年にはゴールデン・アロー賞演劇部門新人賞を受賞している。笑いにも貪欲で大森カンパニーには欠かせないメンバーだ。特技はタップダンス。
【参考】<声優も俳優だ>「ONE PIECE」ルフィ役・田中真弓が語る俳優論
大森ヒロシも東京ヴォードヴィルショーの主要メンバー。もちろん芝居も高度だが、定評のあるのは演出でジャニーズのショー演出を任されたりもする。完璧主義者で稽古の度毎に演出がどんどん変更になるあたりは、まさに「欽ちゃんの再来」だ。
弘中麻紀は早稲田大学演劇サークル「演劇集団てあとろ50’」(後の劇団ラッパ屋)出身。インチキ臭い役をやると、いつも輝いている。今井久美子はシェイクスピアの戯曲全37作品の上演を目指し旗揚げした劇団シェイクスピア・シアター出身の正統派。ノーブルな役がはまり役で大森カンパニーの品位を保っている。
坂本岳大は劇団四季出身のミュージカル俳優。三宅祐輔は花柳中の名取り、花柳輔蔵でもある。舞台を見ると踊りのうまい俳優に見えるかも知れないが、踊りのほうがプロであって・・・自主公演を重ねているので芝居も最近うまくなってきた。
今村美乃は劇団「新宿梁山泊」を中心に演劇活動を始める。女優仲間たちと劇団「激嬢ユニットバス」を結成。特技は器械体操、殺陣と言うだけあって今回はアクション女優としても活躍。さらにダブルスコアをものともせず女子校生役も演じてどきっとさせる。岩田有弘は東京農業大学醸造学科在学中の2001年『冷静と情熱のあいだ』で俳優デビューした苦労人だ。
出演者のラインナップを見れば、彼ら彼女らが皆、芝居の基礎を身につけている役者であることがおわかりだろう。
さて本稿で「芝居が出来る」といっている意味を解説しておく。
たとえば芝居の素人のあなたが、舞台の上にたったひとりで立ったとする。その時、手をどこに置くか、足をどういう位置に置くか。簡単そうに見えるが、きっと、分からなくなる。しかし、「芝居の出来る」プロの役者はその時に自然にスッと立ち姿が決まるのである。
もちろんこの立ち姿だけでは芝居は出来ないわけで、それからが修行なのである。
ところが最近、自らのネタをコントだと標榜している芸人は決まって「芝居が出来ない」。「芝居が出来る」のはインパルスの板倉俊之とドランクドラゴンの塚地武雅くらいしか思い浮かばない。
コントをやる上で、芝居が出来ないとどうなるのか。コントの命である設定の幅が広がらないのである。芝居が出来れば現実ではあり得ない設定も芝居の力で乗り越えることが出来て、設定の幅が広がる。設定の幅が広がると言うことは面白いと言うことである。
同時代を生きているものとして大森カンパニーの「芝居コント」は見ておいた方がいい。特に業界の方。
 
【あわせて読みたい】