アメリカの成功していない先行事例をお手本に強行する経産省「電力自由化」の愚

政治経済

石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]
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電力10社(北海道電力・東北電力・東京電力・中部電力・北陸電力・関西電力・中国電力・四国電力・九州電力・沖縄電力)は、それぞれの営業区域で電気を供給する電力会社。現行法では、電気事業への参入規制や、電気料金規制がある。
事業形態は、石炭・天然ガス・石油・ウランの輸入など燃料調達と発電、流通を担う送配電網の運営、消費者に販売する小売の全てを電力会社が一手に行っている場合がほとんどだ。
経済産業省は今、これら電力10社の発電・送配電・小売の事業部門を分離分割したり、電気料金規制を全廃したりしようと躍起になっている。いわば“電力全面自由化”だ。この制度変更は、“電力システム改革”と呼ばれている。
経産省のパンフレットによると、以下のようなことが実現するのだそうだ。

  1. 家庭でも電力会社を選べるようになります。
  2. どんな電気を使うか、自分で決められるようになります。
  3. 電気代を少しでも安く。
  4. 我慢の節電から、ライフスタイルに合わせた節電へ。
  5. 企業にとっても電気の選択肢が増えます。
  6. 60年ぶりの抜本改革は地域に新しい産業を創出し、雇用を生み出します。
  7. 新しい電気事業者のチャンスが膨らみます。
  8. 消費者目線の電力ビジネスも広がります。

なんとも素晴らしいことずくめではないか!・・・と感じるが、しかし実態は、そうではない。
電力や都市ガスに関わるエネルギー政策も、日本の場合は、欧米の政策を雛形にすることが頻繁にある。“電力システム改革”も、米国や欧州諸国を参考にしているので、ここでは米国の先行例を見てみる。
米国の電力自由化は、連邦政府ではなく、州ごとに判断が委ねられている。結論から言うと、米国の電力自由化は、「成功した先行例」とは決して言えない。米国エネルギー情報局が示した資料を見ると、米国の電力市場は自由化への進捗が芳しくないことが一目でわかる。
 
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[出典:米国エネルギー情報局:http://www.eia.gov/electricity/policies/restructuring/restructure_elect.html]

 
一般社団法人海外電力調査会の調査によると、米国の電力自由化の動向は、おおむね次のようなものだ。

  1. 当初は最大24州とワシントンDCで自由化実施に関する法律が成立。
  2. その後、2000~01年にカリフォルニア州で電力危機が発生し、同州は01年9月に小売競争を中断。アーカンソー州とニューメキシコ州は、一旦成立した自由化法を廃止。オクラホマ州とウェストバージニア州は、自由化実施を無期延期とし活動を中止。
  3. 13年10月現在、全米50州のうち、13州とワシントンDCで全面自由化を実施中。オレゴン、ネバダ、モンタナ、バージニア、ミシガン、カリフォルニアの6州は大口需要家に限定した部分自由化を実施。
  4. カリフォルニア州は10年に家庭用以外の需要家を対象に小売自由化を再開したが、自由化の上限枠を自由化中断前の水準に設定。ミシガン州は08年に自由化法を改正して、自由化枠を電気事業者の前年の販売電力量の10%限定する変則的自由化を実施。

要するに、米国全体で見れば、電力全面自由化のメリットがない州が大半なのである。こうした米国の「成功していない先行例」を知っているにもかかわらず、経産省は日本での電力全面自由化を強引に進めようとしている。これは実に不可解なことだ。
東日本大震災による福島原発事故が起こったため、「システム改革だっ!!」といったん全面自由化に逃げ込んで走り始めた経産省。物事、慣性の法則というのがある。今は、その慣性に身を委ねているだけなのではないか。
電力会社を分離分割しても、消費者利益にも国益にも決してならない。現行の料金規制などは引き続き厳格に実施していく一方で、電力業界の合従連衡を進めることが緊要だ。
震災で傷んだ日本の電力市場を快復させていくことこそが、真の『電力システム改革』である。それは即ち、電力会社が海外の資源国から資源を買ってくる際の「購買力」と、少子高齢社会を迎えて一層の低廉安定供給を継続することのできる「販売力」を備えることに他ならない。
それは、当の経産省当局が一番理解していることであろう。慣性が惰性になる前に、早く慣性から脱するべきだ。
 
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