電力自由化による「止まらない料金値上げ」の実態を指摘しない政治家とメディア

政治経済

石川和男[NPO法人社会保障経済研究所・理事長]
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経済産業省は、電力会社の発電・送配電・小売の事業部門を分離分割(=発送電分離)し、電気料金の値上げを抑える規制を廃止(=料金規制撤廃)したがっている。これは“電力システム改革”と呼ばれる。
既に、電力小売事業の自由化に関しては関係法が成立している。残るは、発送電分離と料金規制撤廃に関する法案。年明けの次期通常国会に提出される予定だ。
経産省によると、

「出身地の電力会社から電気を購入する」

とか、

「再生可能エネルギーで発電した電気を買う」

などなど、全国どこからでも電気を選んで買えるようになると謳っている。だが、実際にはそうはならない。九州から北海道に引っ越した人は、九州から電気を買うことは絶対にできない。この点、政府は大嘘をついている。不可解なことに、国会議員もマスコミも、それを一切指摘しない。
電力やガスなどのエネルギー政策もそうだが、日本は、欧米の先行例を参考にする癖がある。“電力システム改革”という今進められている話も、欧米諸国を雛形にしている。欧米諸国では、2000年頃から順次、電力全面自由化が進められてきた。
ところが、その欧米諸国では、電力全面自由化後、料金値上げが止まらない状況にある。
料金が上がると、消費者の利益にはならない。むしろ不利益だ。だから、欧米の電力全面自由化は、「成功していない先行例」なのだ。図(電気料金の国際比較)に示した資料を見ると、それがよくわかる。これは経産省が提示している資料である。
 

資料

(出所:経済産業省)

 
欧米諸国は、2000年頃から料金値上げ傾向が始まった。再エネの普及が最も進んでいるドイツの料金値上がりは際立っている。韓国の料金水準が低いのは、国策によって料金水準を抑えているからだ。
日本が2010年以降に料金値上げ傾向に転じたのは、東日本大震災による原子力発電所事故をきっかけとして、原発が停止し続けていることによる。また、日本の料金水準が欧米より高いのは、日本がほぼ100%の資源輸入国であるからだ。
以上、電力自由化が進んでいる欧米の電気料金動向をおおまかに見たが、“自由化=価格低下”ではないことが明らかになっている。欧米の電気料金動向について、経産省自ら資料として提示しているにもかかわらず、経産省は日本での電力自由化と、それによる欧米型の電力システムづくりを強引に進めようとしている。
これは実に不可解なことだ。
電力会社を分離分割しても、消費者利益にも国益にも決してならない。ましてや、料金規制撤廃というのは「値上げ自由化」そのものだ。今、日本では、規制料金にもかかわらず、原発停止によって料金値上げラッシュとなっている。こんな時に料金規制を撤廃すれば、どういう結果になるか? それこそ、料金値上げを抑える手段がなくなってしまう。
料金規制を引き続き厳格に実施していくとともに、電力10社体制の集約合理化を進めることこそが、真の電力システム改革である。それは、少子高齢化への危機感が芽生え始めた今世紀初頭からわかっていたことだ。
 
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