<深夜0時、望月環境大臣の会見>扱いが小さくなることを狙う姑息なマスコミ対策に「卑怯だ」の声

政治経済

藤沢隆[テレビ・プロデューサー/ディレクター
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10月27日夜、「報道ステーション」(テレビ朝日)の終了間際のところで、古舘伊知郎はやや意気込んでこう伝えました。

「望月環境大臣がこのあと午前0時から緊急で会見を開くと発表しました。今入ったんですが、詳細は不明ですが、どうやら個人の政治活動に関する内容だと見られているようです。」

小渕、松島、宮沢と閣僚の不祥事が続いているところに、現職の環境大臣が個人の政治活動に関して深夜に緊急記者会見をするというのですから異例中の異例です。マスコミが辞任会見!と思うのは当然です。だからこそ多くの記者やカメラが集まったのでしょう。
熱気むんむんの会場で望月義夫環境大臣が発表した内容は、朝日新聞を引用すれば、以下のようなことだ。

「『望月義夫後援会』の08、09年の収支報告書にある支出約660万円が、本当は別の関係団体への会費や会合費などで、これらと同額だった賀詞交歓会の支出に付け替えたとみられると説明。処理したのは10年に死去した望月氏の妻で、『当時は組織活動で使う会合費は社会的に非難されていた。家内が慮(おもんぱか)ってやったのだと推測する』と話した。」

望月環境大臣は、自分自身には法的責任はなく、よって今後も環境行政に邁進する、というものでした。これは多くの記者からみれば夜中に緊急に集めておいて「ふざけんなよ」と言いたくなるような内容だったと思われます。記者の内心の憤懣を示すようなやりとりを翌朝のテレビ朝日「モーニングバード」が伝えています。

記者「夜中でも会見しなさいと官邸から指示があったのでしょうか?」
望月「一日でも早い方がよいかと」
記者「夜中の12時に大臣の不祥事でこのような会見を開いたのははじめてですよね。大臣自身が辞任会見をされるのかということで集まったんですけどそうじゃなかったのか・・・あるいは、この場で大臣が口頭で我々に問題があったと説明されても我々は、ここで精査してきちっと聞けませんよ。ですから明日きちっとした形で、もう一回我々が精査した上で質問して(大臣が)答えられる場をつくるべきだと思う。」
望月「一日も早くお知らせした方が・・・」

環境大臣にこんな露骨なことばを浴びせるほどに記者たちが苛立ったのは、単に真夜中に集めれたからだけではなかったと思われます。この日、日本初のエボラ出血熱の疑いがある旅行者が入国し、未明にはその検査結果が出るという、日本中が固唾を呑んでいつという緊迫した状況でした。
加えて川内原発の再稼働の地元判断、北朝鮮の拉致問題での代表団派遣など大きなニュースも目白押し。新聞記者にしてみれば朝刊の締め切り時間もせまっていて、もし環境大臣が不祥事で辞任ともなれば紙面の大幅差し替えでそれこそテンヤワンヤの大騒ぎになるという緊張した局面だったのです。
ところが会見の中身は、この真夜中に発表してしまえばマスコミの扱いが極端に小さくてすむだろうという望月環境大臣の打算があからさまに透けて見え、集まった記者たちの心中は「フザケンナ!」ってな感じがマックスとなり、それが質問の内容にもあらわれたようです。
この会見、時間設定ばかりでなく、望月環境大臣の発言そのものがなんとも「感じのわるーいモノ」でした。660万円が政治資金規正法の虚偽記載に当たる可能性があるが、団体の代表者は数年前に死んだ妻で、自分には法的責任はない、と繰り返しました。
形式的事実としてはそうかも知れませんが、誰の後援会の話なのかを考えれば、自分に法的責任はないとくり返すのは見ていて見苦しいものです。もしかしたら「亡くなった奥さんがかわいそうかも」と多くの人が思ったのでは。
さらに、この大臣の説明による「本当は別の関係団体への会費や会合費」だったという「本当の支出」は、当時社会的に非難されるのではと亡妻が慮ったような支出なのですが、これについて、どのような内容の会費や会合費だったのかは具体的に説明しませんでした。
当時、大臣の妻が社会的に非難されるのではと慮り、故意に虚偽記載したような「アヤシイ支出」が、数年後の今は社会的に慮る必要がなくなっているとは限りません。それは今だって「アヤシイ支出」なのかも知れないわけです。この点について望月大臣は、すでに領収書もなくなっており、妻がやったことで自分はまったくわからない、という趣旨の発言に終始しました。そんなばかな。
この望月義夫環境大臣は静岡県の八百屋の次男に生まれ、地元では「八百屋のよっちゃん」なんて呼ばれこともある庶民派なのだとか。しかし、自民党の県連会長だった2010年ころ、(自民党県議が)クラブやラウンジの飲み代約66万円を「政治資金から支出」と報じられた際、望月さんは「私はクラブに行ったことはないが、情報収集など政治活動において必要だったと思う」などと言い訳して批判を浴びたといいます。(「日刊ゲンダイ」9月30日)八百屋のよっちゃんは政治資金のとり扱いについて許容範囲の「ゆるーい方」なのかも知れません。
マスコミの扱いが小さくなることをねらったかのように真夜中に緊急記者会見を無理矢理セットし、辞任はもちろん、肝心な点の具体的説明もない。社会的、道義的、あるいは実質的な責任は無視、妻が責任者で自分には法的責任がない、だから環境大臣を続けます、という八百屋のよっちゃんの潔くない今回の会見。おそらく庶民がもっとも嫌うようなすこぶる「感じのわるーい」ものでしたから、翌日のテレビコメンテーターの発言も望月環境大臣に対し一様にあきれたような苦笑いを浮かべ、「情けない」「卑怯だ」「姑息だ」といった感情を言外に滲ませたコメントに聞こえました。
さて、10月30日、その会見からわずか二日後、NHKは九電川内原発再稼働の安全性について質疑する衆議院予算委員会を中継しておりました。
広い政府側の席はガランとしていて、座っているのは最前列の4人だけ。安倍総理、麻生副総理、そして大臣になるまで福島に行ったこともなかったSMクラブ問題の宮澤洋一経産大臣(原子力経済被害担当)、そしてもうひとりが望月義夫環境大臣という並び。
なんと原子力防災担当の所管大臣はあの望月環境大臣なのです。福島の深刻な原発事故を思い返せば、再稼働しそうな原発の防災をほんとにお任せして大丈夫なのかなあ・・・と、なんとも心さみしくなるようなフォーショットでありました。
 
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