<香山リカとの往復書簡が刊行>ドクター小鷹、どうして南相馬に行ったんですか?

社会・メディア

小鷹昌明[南相馬市立総合病院・神経内科専門医/医学博士]
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4月17日に、精神科医の香山リカさんとの共著『ドクター小鷹、どうして南相馬に行ったんですか?』(七ツ森書館)が発刊された。帯には、

「福島第一原発から一番近い病院で地域づくりに取り組むドクター小鷹。香山リカとの、のほほんな手紙のやりとりがはじまった」

と記されている。
震災後、香山さんが「支援者支援(復興の支援をしている人たちの疲弊を防止するための支援)」のために南相馬市に何度も足を運んでいる間に、面識を得たことがきっかけで、彼女の提供するインターネットマガジンに登場させてもらうことになった。メルマガ内で約1年間にわたって継続してきた「往復書簡」が、まとめられて書籍になったのだ。
発刊後間もなくして、以下のような書評を地元住民からいただいた。

『ドクター小鷹、どうして南相馬に行ったんですか?』を読み終わりました。スカッとしました。

今まで感じていた「支援する側」、「される側」の間に存在するモヤモヤした感じを、すんなり表現してくださいました。この本は地元の人にこそ読んでもらいたいです。南相馬の住民との交流を描いた、いわゆる「被災地南相馬」を伝える本には違和感を覚えるものが多く(個人的な感覚ですが)、閉塞感を持っていましたが、はじめて「これだよ!」と、気持ちが弾んでしまいました。

ここでの暮らしは多面体です。人の気持ちも同じです。淡々とした語り口で、この土地の複雑さが分析されていることに、胸のスク想いで読み進めました。行き詰まりを感じていた自分に爽やかな活力を与えていただきました。この本の中にある、たくさんの「名言」を使わせていただきたいのですが、よろしいでしょうか? もちろん、本を読んでいただきたいという気持を込めてです。とにかく、この本は南相馬を知るにはイチオシです! ありがとうございました。

本書の内容を、地元住民に受け入れてもらえたことが何より嬉しかった。お陰で南相馬市の現実を知ってもらうことでは、一定の役割を果たせたのではないか。
「往復書簡」という形での手紙のやり取りを通じて、私に考える機会を与え続けてくれた香山さんには感謝している。自分が好んでこの地に赴任しておいて言うのもなんだが、「何のために、なぜこの地に来たのか」ということを問い続けることができた。
ここで生きていくにあたっての意味を、否が応でも考え続け、「被災地という現場から、世の中への本質」という部分を考察し続けることができた。こういうことは、雑誌を読んだり、報道を見たり、講演を聴いたりしても養われない。自分と向き合い、語りかけ、内省し、ゆっくり反芻することで形成されていくものだと気がついた。
震災から4年が経過したなかで、被災地での言説は既に飽きられている。誰が何を説明しようが、これはもう紛れもない事実である。多くの支援者が撤退するなかで、私たちのような医療者は何を目標に、いかなる活動を展開していけばいいのだろうか。
県外の人たちに、何を伝えたいのか。いま、それが問われている。とりあえずの結論を述べるなら「そのためには、自立していくしかない」ということであり、「自ら行動する姿を示していくことで、被災からの立ち直りを供に考えていってもらいたい」ということである。
これからの時代においては、災害や事故、犯罪などが多発することが想定される。心と健康とを下支えすることで、保証金から脱却し、自前で産業を興し、医療・福祉・介護に関する人材を増やし、教育を再生させ、そしてさらに、いまの日本では「生産性のないこと、合理的でないこと、正論でないこと」を排除してしまったら、温もりのあるコミュニティは構築できないということを、この世界初のトリプル災害の地から伝えていくことである。
さらに言うなら、来ていただいている支援者と上手に付き合い、共同で豊かな人生を歩んでもらえるような仕組みを維持することだ。そのための被災地が果たすべきこれからの役割は、福島を「負の遺産」として単に「過ちを繰り返さない」という教訓を記憶するためのアイテムとして語り継いでもらうのではなく、被災地を経験した人たちが、やがて自分の属するコミュニティにおいて、何かを還元する「当事者」というか「パフォーマー」になってもらうことである。
福島での活動経験が、単に「被災地でお役に立てた」ということだけではなく、その人の人生を作れるような。
 
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