<信頼される美容医療広告とは> AND medical groupが考える「誠実で透明な広告」との向き合い方
岡部遼太郎(本誌ライター)
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今、TikTokやYouTubeなどの動画SNSを中心としたネット広告は、マーケティングやビジネスにおいて不可欠なものとなっている。法令や規制が求められる医療の分野でもそれは例外ではない。
一方で、ネット広告の問題点も指摘されるようになっている。医療広告は、2018年6月の医療法改正により、医療機関のネット広告が規制の対象となり、ナイーブな取り扱いがされるようにもなっている。
そこで本稿では、一般社団法人AND medical groupの代表理事・草野正臣氏に話を聞いた。AND medical groupは創業からわずか4年で30ものクリニックをオープンさせたことで知られ、その驚異的な成長を支えた広告の効果的な利活用に注目が集まっている。
(以下、インタビュー)
<法規制と暗黙のルール>
インタビュアー ITライター・岡部遼太郎(以下、岡部):最近、SNSのショート動画にクリニックの広告が増えています。広告にも医療知識の参考になるようなものもありますが、一方で、誇大広告や消費者の関心を煽るようなものまで玉石混交です。この現状について、草野さんのご意見を聞かせてください。
一般社団法人AND medical groupの代表理事・草野正臣氏(以下、草野氏):医療における誇大広告や煽り広告に対しては、個人的には問題視はしています。広告手法そのものが年々技術革新とともに多様化していく一方で、医療広告のルールとして厚生労働省が策定している医療広告ガイドラインもすべてを明文化してカバーできていないところもあり、その都度、他業種事例を参考にしたり、知見のある方のご指導を受けながら成長してきたという背景があります。
岡部:法律などの規制はあっても、その範囲外にある暗黙のルールのようなものが、明文化されていなかったという意味ですか?
草野氏:そういった側面もあります。もちろん、これまで行政側がすべてをカバーしたはっきりとした指針を出していなかった、ということもあると思います。しかし、医療業界も広告に関連したトラブルなどが発生するようになり、最近になってようやく厚労省などを中心に、美容医療に関する指針や、広告・医学的観点に関するルール整備と明文化や法制化が具体的に進み始めています。我々も、行政からガイドラインが示されれば、それに従って進めています。結局、私たち自身が常に行政などの動向にアンテナを張りながら意識して対応することが大事なのだと考えています。

(インタビューにお答え頂いた一般社団法人AND medical group草野正臣代表)
<AND medical groupの広告対応とチェックポイント>
岡部:草野さんがAND medical groupの代表者として、広告を活用される際に注意している点や、チェック体制などについて教えてください。
草野氏:まず、法人内部と外部で、フィルターをかけるようにしています。内部では、AND medical groupとしての広告ガイドラインや指針を設けています。それを逸脱していないか?という点を常に内部で確認します。加えて、外部の第三者機関にも審査を依頼しています。このように、内外でスクリーニングをかけることで、できるだけトラブルのない表現・構成を心がけていますね。そもそも医療従事者の視点と、一般消費者の視点とではかなり違います。一般の方は、他業種の広告と同じような感覚で医療広告を見ていますが、医師や看護師などの医療従事者が見ると、「この表現は医学的におかしい」「過剰だ」と感じる部分があります。そのような、なかなか通常ではフィードバックが得られにくい意見などをもらった時は、しっかりと広告担当チームに還元するように意識しています。
<医療広告の役割>
岡部:医療広告は、単なる集客というだけでなく、病気や治療に関する情報提供コンテンツとしての役割もあると思います。その意味では、広告が患者様とクリニックをつなぐ架け橋になっていますよね。美容医療業界での広告には、クリニック側の集客以外の公益性など、どういった役割があると考えていますか?
草野氏:かつての美容医療は、本当に興味のあるごく一部の人だけが自分で調べて、「こういう治療法があるんだ」と知り、実際にクリニックに足を運び、説明を聞いて申し込む、という流れでした。それが現在では、SNSや動画サイトのおかげもあり、ある程度知識のある方が増えています。つまり、提供される治療やサービスについて、「どんな治療がどれくらい効果があるのか」などを、より深く知りたいと考えているリテラシーの高い方がクリニックに足を運んできます。
岡部:なるほど、エンドユーザーの水準が高いわけですね。患者様自身が持っている情報も増強されているというか。
草野氏:そのような意識の高い方たちにも興味持ってもらう、刺さる広告を作ることができれば、予約や案内につなげることができます。そのためにも、射倖心を煽ったり、誇大広告をするのではなく、むしろ、できるだけ具体性のある情報、実際の施術内容に基づく情報をわかりやすく届けるように意識しています。そのあたりが結局は差別化につながるのだと思いますね。
岡部:AND medical groupの場合、かなり手広く広告を手掛けているという印象ですが、使い分けはあるのですか?
草野氏:私たちは広告の役割として「信頼感」が重要だと思っています。例えば、テレビCMや交通広告などを出すことで規模感や社会性、信頼感を伝えるメッセージになります。それはそのまま、広告主への安心感にもつながります。もちろん、患者様に向けてだけではありません。例えば、社内のスタッフや今後働きたいと考えている方に対しても、「AND medical groupはここまで成長しているんだ」とか「AND medical groupは安心して働ける規模のクリニックだ」と思ってもらえる、知ってもらえるきっかけにもなります。外部的な信頼だけでなく、社内的な誇り・モチベーション向上の効果もある。これこそ意外と見落としがちな広告の役割ではないでしょうか。
岡部:AND medical groupでは、広告をきっかけに施術やクリニックを知る方は多いのですか?
草野氏:もちろん、ご自身で調べて、連絡をくれる方はたくさんいらっしゃいます。しかし、広告、すなわち私たちのメッセージをきっちりとキャッチしてくれて、そのメッセージの趣旨を理解して上で、来てくださる方は確実に増えていると感じています。総じて、他のクリニックよりも、広告をきっかけに来ていただける方は多いのではないでしょうか。
岡部:AND medical groupに限らず、他の医療機関やクリニックも、広告が来院のきっかけになるケースは増えると思います。一方で、玉石混交と言いますか、素人では判断しづらいものも多いですよね。特に、良い悪いでなく、「自分に合う、合わない」ということなどは、なかなか見分けられないと思います。そういう場合の見極めのヒントなどはあるのでしょうか?
草野氏:難しい質問ですね。医療機関の場合は、最初の一歩と、最終的な受診までにかなりの敷居があるのが現実です。どんなに広告を打ったところで、実際に来てみて納得できなければ、絶対に受診はしてはくれませんから。
岡部:広告はあくまでも最初にメッセージを届ける手段でしかない、と。
草野氏:そうですね。特に、合う・合わないというのは、最終的には1回来院していただき、実際に受診してみてから判断するしかありません。これは良し悪しだけではなく、感性や相性の問題でもありますからね。もちろん、最初の一回で、そのクリニックの技術や信頼性なども概ね体感できることも事実です。受診して、カウンセリングを受け、最終的に料金の支払いまで進んでみて、満足できる内容であれば「また来たい」と思える。それが結果的にリピートにつながるスキームだと思います。
岡部:最後に、AND medical groupとして医療広告を発信する際に心掛けていることがあれば教えてください。
草野氏:まず広告で興味を持っていただき、クリニックに来ていただく。これは広告の役割として期待している第一歩です。AND medical groupが提供している高い技術力と信頼感が伝わるような広告、そのメッセージや熱量を理解していただける、そんな広告発信を心掛けています。自分たちが自信をもってアピールできる実績のあることを出してゆけば、それが自ずと患者様にとっても届く広告になるはずだと信じています。
(以上、インタビュー)
引き続き本誌では、AND medical group代表理事・草野正臣氏に美容クリニックのSNS広告に対する向き合い方を取材し、レポートしてゆくので、楽しみにしてほしい。
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