<柄本明と佐藤B作の素晴らしさ>柄本は「人前で演じることは、そもそも恥ずかしくて不自然」と語った
高橋秀樹[放送作家]
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柄本明と佐藤B作といえば、1970年代から80年代の小劇場ブームの立役者だ。二人とも自由劇場の出身で柄本は東京乾電池、B作は東京ヴォードビルショウの座長である。2つとも、笑いの劇団である。
初めて見たとき、テレビと演芸の笑いにどっぷりとつかっていた僕は、唖然として口がきけなくなった。こういう笑いもあるのだ、面白い。乾電池でテレビに世界を渡っていけるのは高田純次だと思った。その通りになった。
東京乾電池のメイン作家は岸田国士戯曲賞を獲った岩松了である。筆者は一緒にテレビのコントを書いたこともあるが、岩松の書くコントが僕には理解できなかった。筆者の力量がなかったのだと思う。
東京ヴォードビルショウは、いろいろな脚本家が書いたが、メインの作家は向田邦子賞の松原敏春である。井上ひさしは松原を激賞しているが、僕も同じ思いである。ヴォードビルショウは今、三谷幸喜の作品を連続再演しているが、B作に「松原さんのホンも演ってください」と頼んだところ「三谷のは、客が入るんだよ」答えた。
2014年7月9日の日経新聞夕刊に載った、柄本のインタビューが素晴らしい。
柄本は次のように言う。
「人前で演じることは、そもそも恥ずかしくて不自然」
「台本のセリフは、人の書いた言葉。それを話すのは自然ではない」
「表現しない。演じない境地を目指す」
別役実を現代最高の劇作家だとする柄本が憧れるのは三木のり平の演技である。
B作に、ナレーションの仕事を依頼したことがある。筆者はめったにナレーション撮りの現場には付き合わない。自分の言葉が音声になるのを聞くのが恥ずかしいからだ。
ただ、この時だけは付き合った。直しがたくさん出るに違いないと思ったからだ。ところがB作は、筆者に会うなりこういった。
「ヒデキ、最近、俺はハイとしか言わないようにしているんだ」
聞いて少し涙が出てしまったが、それはごまかした。ナレーション撮りはあっという間に終わった。見事な自然体でB作のふるさと、福島の復興に元気を与えてくれた。
柄本明と佐藤B作。二人だけで共演する芝居を見てみたい。作家は、チェーホフにでも頼みたい。(高橋秀樹[放送作家])
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