<テレビドラマ崩壊現象が進行か>フジ・ドラマ名門枠「月9」で『いつ恋』が史上最低視聴率9.7%
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
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今年の冬(1月~3月)ドラマ、視聴率の結果を見れば、つまらなかったと感じたのは筆者ばかりではなかったようです。筆者が最終回まで視続けた民放ドラマは結局の所、フジテレビの『お義父さんと呼ばせて』と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の2本だけでした。
『お義父さんと呼ばせて』の方は個人的には面白かったのですが、主人公が51才の男二人というのはある年齢以下の人にとっては興味がわかないのではと心配していたとおり、視聴率的には残念な結果でした。
男女6人の青春群像ドラマである『いつ恋』は彼らが生きる舞台として現代の若者たちを包む社会的問題をこれでもかというほど前面に押し出したドラマでした。ですから、そうした過酷な現実社会の中でこのドラマが若者たちの生き方や恋の行方にどう決着をつけるのか、名脚本家坂元裕二さんのシナリオに大いに期待して視続けました。
ネットでは、このドラマを社会派風とか社会派要素とか評している方がおられますが、「風」だったり「要素」と表現されるということはけっして社会派ドラマではなかったということでしょう。
もちろんひとつのドラマが社会派ドラマであろうがなかろうがかまわないのですが、あれほどまで現代の若者を包む重い問題を持ち出して来たのですから、坂本さんなりの、あるいはこのドラマなりの「ことば」ぐらいは発して欲しかったような気がします。
それがないばかりか、筆者の理解力が不足しているのかもしいれませんが、有村架純さんと高良健吾さんの恋は結局のところ結ばれたのかどうか、いったい「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」のは誰なのか、などいろいろすっきりしない着地のドラマでした。
そして、このドラマに対する筆者の感想はともかくなのですが、この『いつ恋』は刮目すべき結果をもたらしたドラマとなっていました。
フジテレビの毎週月曜のドラマ枠、いわゆる月9はシリーズ平均で34.2%をたたきだした2001年の『HERO』をはじめ、数々の名作、あるいは高視聴率作品を生み出してきた名門枠でした。その月9で『いつ恋』は平均9.7%と史上最低視聴率を記録してしまったのです。
これまでは2014年の『極悪がんぼ』の9.9%が最低でしたが『いつ恋』はこの視聴率を下回り、さらに月9における平均視聴率ひと桁も『極悪がんぼ』に続いて2作品目となりました。
このことは個別の枠や作品が低視聴率だったという話ではなくて、テレビドラマの崩壊現象が進み危機的状況になっていることの象徴なのかもしれません。
【参考】<「あさロス」の方のために>「あさが来た」平均視聴率が今世紀最高23.5%
【参考】ドラマ「はぶらし/女友だち」女も男も恐怖する池脇千鶴の怪演
手元に簡単なデータがあります。民放連続ドラマの二桁率です。
民放各局のレギュラードラマ枠(19時~23時台)は概ね毎期16枠から18枠で推移しています。このうちの何本が二桁の視聴率を取ったかというデータです。(あくまで手元のデータですので厳密には微差があるかもしれません)
2013年には通年でおよそ60%の作品が二桁を取っていました。18本なら11本は二桁だったということです。ところが2014年の二桁率は40%強、2015年はおよそ30%と年ごとに着実に下がっているのです。
そして今年の冬期(1月~3月)は16本中たった4本、率にすればわずか25%に落ち込んでいます。
冬・春・夏・秋の各クールの中では冬期の二桁率が高いのが例年の傾向なのですが、その冬期だけを抽出しても、2011年には75%、2013年までは65%の二桁視聴率だったものが、2014年は55%、2015年は41%、そして2016年25%とずんずんと下がり続けています。
あしかけ6年を通しての傾向ですから、もしかするとこれは年ごとにテレビドラマが視られなくなってきている証左なのかもしれません。視る人の少ないドラマに高い金を払うクライアントがいなくなればテレビドラマが崩壊してしまうのではないか、そんな危機感を感じます。
民放地上波からプロ野球中継が消え、音楽番組が激減、カルチャー&教養番組もほぼ消えつつあります。その上ドラマまでも消えていったらどれほどの人がテレビを視続けるでしょうか。それこそテレビの崩壊です。
いま、ドラマの踏ん張りどころであるということはテレビの踏ん張りどころでもあります。なんとかドラマ制作者の方々には頑張ってもらいたいと心から思います。幸い春ドラマには面白そうなものもありそうです。どうかたくさんの二桁ドラマが生まれますよう。
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