<2015年春ドラマPart4>テレビドラマは誰のために何のために創るのか?

エンタメ・芸能

黒田麻衣子[国語教師(専門・平安文学)]
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◼︎ 誰のために、何のために? 何を伝えたくて?
誰のために、何のために。誰に何を伝えたくて、このドラマは作られているのか。
その答えは、作り手によって千差万別であっていい。でも、それが曖昧になった時、ドラマは魅力を失ってしまうような気がする。
例えば、刑事ドラマ。刑事ドラマは、とてもシンプルだ。罪を犯せば、必ず捕まる。どんな事情があれど、悪いことは悪い。人情に厚い刑事さんでも、見逃してくれたりはしない。ドラマの中では、事件が未解決に終わることはなく、悪さは必ず露顕して、罪人は逮捕される。その勧善懲悪の潔さが、ある程度の視聴率を生むのだろう。
医療ドラマもしかり。必ず出てくる「命より大切なものなど、この世にはない」と信じて疑わない純粋な医師。目の前の消えそうな命と必死に戦ってくれる医師。「生きろ、生きろ」と魂に訴えかけてくるそのメッセージは、当たり前に人を惹きつける。
その医療現場を舞台に、恋愛模様を描こうとしているのが、フジテレビの木曜22時『医師たちの恋愛事情』だ。初回のOAAを見た時には、おもしろそうだと次週を楽しみにした。恋愛事情だけではなく、サイドストーリーとしての医療機関のゴタゴタもちゃんとあって、主人公の守田春樹(齋藤工)もヒロインの近藤千鶴(石田ゆり子)も仕事熱心な医師で、見応えありそうだとワクワクした。
しかし、2週目3週目と回を重ねるごとに、命に向き合うひたむきさは鳴りを潜め、想い人を振り向かせることに必死な男女の姿ばかりがクローズアップされてきて、辟易した。
食事の約束をしていながら、緊急コールに院内へ舞い戻る二人の姿で、医師としての必死さを描いたつもりかもしれないが、デートの約束が仕事でキャンセルになることなど、どの仕事でも起こりうる日常茶飯事であり、何も医師に限ったことではない。
そればかりか、今の演出では、守田や千鶴の仕事に対する必死さが、想い人へのアピール、点数稼ぎに見えてしまう。これでは、せっかくのドラマコンセプトが台無しである。むしろ、周囲にいる麻酔医の河合(相武紗季)や外科医の高橋(平山浩行)の方が、ずっと仕事できそうだし、仕事は仕事、恋は恋と割り切っているように見えてすがすがしい。
これからの展開で、「命の最前線で戦う」医師の、医師だからこその恋愛事情がうまく描かれていくことを願いながら、続きを観ようと思う。(つづく)
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