<リニューアル「NEWS23」>未完のコンセプト「脱ナリチュー」を活かせるか
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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新しく朝日新聞から星浩キャスターを迎え、24歳の新人・皆川玲奈キャスターを起用して始まったTBSの新「NEWS23」。
どんな番組にもコンセプト、日本語にすれば企画意図、もっと平たく言えば「やりたいこと」が、あるはずである。しかし、残念ながら、番組にはそれが全く感じられない仕上がりになっていた。
テレビ番組制作は始まって1週間くらいは試行錯誤の時期で、あらが目立つのは致し方がない。よって、冷静な判断をするためにも、その時期はあえてスルーして、4月11日の放送をじっくり見ることにした。芝居で言ったら、まだダメ出しの済んでいない初日を避けて、中日に見に行ったという感覚である。
この日は富川裕太アナが起用された「報道ステーション」(テレビ朝日)が初日であったが、こちらはと言えば、「初日のこなれなさ」が漂っていたことだけを記し、もう少し経ってから総合的な意見を述べたい。
【参考】<膳場貴子氏・岸井成格氏「NEWS23」降板>何が自由な言論やジャーナリズムを弱体化させるのか?
さて話を元に戻すと、テレビ番組にとってはなぜ「コンセプト」が大事なのか。
それは、そのコンセプトを旗印にして、その旗の下にスタッフが集まり同じ方向をむいて仕事をしてこそ、番組の特徴が出るからということに尽きる。明確な旗印がないと、好き勝手にスタッフは動き出し、方向性を見失って番組がひとつの生命体であることが不可能になる。もちろん、そういう番組は魅力的ではない。見やすくない。
番組作りのプロたちは、そんなことは百も承知だろうから、コンセプトは決めているはずである。番組の公式サイトには以下のように書かれている。
(以下、番組HPより引用)
▼ 新しいNEWS23は“運動神経で勝負”
新しい情報や映像をドンドン入れていきます。夜11時・・・まだまだ眠れません! ちなみに新メインキャスター星浩は、中学からサッカーをはじめ、 子どものサッカーコーチを務めたこともあるスポーツマン。そして駒田健吾キャスターは熱い阪神ファン。スポーツ担当・宇内梨沙キャスターの特技はバドミントンや水泳。スポーツコーナーも一層華やかに!
▼ 新しいNEWS23は“スマホ超え”
ニュースの背景にある“なぜ”を解くキッカケは・・・ ニュースの延長線上にある“問題点”は・・・ スマホでは見えないニュースの姿が見えてくる!
▼ 新しいNEWS23は“脱ナリチュー”
“ナリチュー”=“成り行きが注目されます”は、 良く耳にするニュースの“決まり文句”。新聞記事を書き続けて30年のメインキャスター・星浩は、 「決まり文句を使わない」とスタッフに宣言しました!その宣言に、24歳・皆川玲奈キャスターも「私も挑戦する」と すっかりその気に。誰の耳にも目にも心地良い、分かりやすい言葉で、 どんな難しい事柄も納得!
▼ 新しいNEWS23は“新しい1日のために”
悲しいニュースも多い毎日・・・。でも放送中に迎えることになる新しい1日は、少しでも明るい日にしたい。そのために番組をどう作っていくか、スタッフ一同、真剣に追求中。
(以上、番組HPより引用)
一読して、「これは、いけない」と直感した。まず、コンセプトが4つもある。これは無いに等しい。スタッフたちが集う旗印たるコンセプトは、ひとつであるべきであろう。
1989年に始まった「筑紫哲也のNEWS23」のコンセプトは「キャスターは筑紫哲也である」。わかりやすく強固なコンセプトだ。それは望むべくもなく始まった新しい「NEWS23」であればこそ、コンセプトが大事なのだ。
少なくとも、上記の4つのコンセプトをひとつに絞るだけで、そうとう明確になる。上記4つの中でコンセプトになり得るのは「▼ 新しいNEWS23は“脱ナリチュー”」だ。これを使わない手はない。
「脱ナリチュー(=脱・安易なまとめ方)」になっているか? を丁寧に検証する。「安易なまとめ方をしていない番組」というコンセプトは誰にでもわかりやすい。新鮮なニュース原稿やコメントは耳目を引くはずだ。
では、筆者が視聴した4月11日の放送が、そのコンセプトの通り「脱ナリチュー」になっていたか・・・と言えば、残念ながら、なっていなかったように思う。
せっかく出身地・福島の居住制限区域の桜並木の前に立った星浩氏のコメントは「引き裂かれた住民」だったし、初めて福島に取材に来たと言う皆川玲奈氏のコメントは、「(被災した人に)がんばれと言わないで」だった。
全部どこかで言われて、これまで繰り返し視聴者が聞かされたコメントであろう。収まりはいいが、完璧な「ナリチュー」である。
まだ出来上がっていない、という意味で「脱ナリチュー」は、非常によいコンセプトである。星浩氏と皆川玲奈氏にコメントのアイディアを出す専属の記者を、それぞれつけて、案を練っていけば番組はどんどん良くなるはずである。
ただし、皆川玲奈氏は星浩氏が記者の大先輩だからと言って遠慮をしていてはいけない。テレビでは素人なのだから。
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