GoTo事業の何がどうダメなのか -植草一秀

政治経済

植草一秀[経済評論家]

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財政活動は政治の中核。私たちは選挙で議員を選ぶ。国会の議席配分によって内閣が作られる。内閣が行政を担うのだが、重要事項を決定するのは国会だ。国会は立法府と呼ばれ、法律を制定するが、国会の役割はそれだけではない。もう一つ最重要の仕事がある。予算を決めること。この予算を執行するのが内閣だ。政治の最大の役割は法律と予算を決定して、これを執行すること。法律の制定、執行も重要だが、私たちの暮らしに直結するのが予算の編成とその執行なのだ。

政治活動の中核が財政活動である。2020年度の一般会計当初予算規模は103兆円。これが国の予算だ。支出のうち、23兆円が国債費、16兆円が地方交付税である。両者を差し引いた部分が政策的な支出になり「一般歳出」と呼ぶ。2020年度の一般歳出規模は62兆円。このなかの36兆円が社会保障関係費である。社会保障関係費を除く政策支出は合計で26兆円。予算規模103兆円と政策支出26兆円に大きな落差がある。2020年度はすでに二次にわたる補正予算が編成された。第一次補正が26兆円、第二次補正が32兆円。

これらの支出は基本的に新規の政策支出だけ。103兆円の本予算に比べると小さく見えるが、当初予算のなかの政策支出26兆円を基準にすると、その2倍以上の政府支出追加が決定されたことになる。コロナで日本経済が苦境に陥っているのだから、財政政策を発動すること自体は間違っていない。しかし、58兆円もの巨大な国費が投下されている。これだけの巨大予算を投下するなら、透明、公正に資金配分を決めなければならない。ところが、これがデタラメなのだ。

アベノマスクに466億円が計上された。GOTO事業に1.7兆円が計上された。いったい何が起きているのか。官僚機構が利権予算の分捕り合戦を演じている。安倍内閣に至っては予備費に10兆円を計上した。自分たちの小遣いに10兆円を確保したようなものなのだ。

GoTo事業では各都道府県に10~30程度しか存在しない人気旅館に予約が集中している。通常は値引き販売しているが、大型政府補助が付くために定価販売や、割高宿泊商品が新たに組成されて販売されている。その販売が沸騰して2021年1月末まで全室満室の旅館が続出している。他方で低価格帯の宿泊商品を販売する宿泊事業者には新規の注文がほとんど入らない。政府が本当に支援しなければならない人々、事業者に財政資金が配分されず、特定の一部の人々、事業者に恩恵が集中的に投下されている。

また、複雑極まる制度設計にしたために、膨大な事務経費が発生している。その事務を請け負っているのが大手旅行代理店などで、こうした大手旅行代理店は本業が極めて厳しい状況に追い込まれ、労働力の過剰が深刻化するなかで、その過剰労働力を稼働させる事業として事務取扱いを活用している。政治勢力と癒着する事業者がコロナに紛れて巨大な利益を獲得しているわけだ。こうした事業者が与党国会議員に政治献金で資金を還流する。要するに、国民の資金が特定事業者に恣意的に配分され、政治家がキックバックを受ける構図が成り立っている。

こうした利権まみれ、利権を軸とする財政構造を刷新するのが本当の「財政改革」ではないのか。財政支出は、「簡素」、「公正」、「直接」で執行されるべきだ。巨大予算で利権王国が形成されていることが最大の問題なのだ。

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