<庵野秀明監督も魅了した「ウルトラマン」>特撮番組を「じゃり番」として格下に見るのはやめよう

テレビ

岩崎未都里[ブロガー]
***

「次回から、『じゃり番』撮影なんだよね。やりたくないなぁ」

と番組制作会社勤務の友人が言ってきました。筆者は思わず以下のように聞きました。

「『じゃり番』って、日曜朝枠の子供向け『なんとかレンジャー』のことでしょ、そんなに嫌な仕事なの?」

この手の番組は、制作スタッフにとってはツラい仕事の様子です。「ウルトラシリーズ」や「戦隊シリーズ」などの特撮番組は業界用語で『じゃり番』と呼ばれ、業界では普通のドラマ製作に比べると「格下」とされた風潮がある様子です。
そのため、俳優さんが特撮番組で人気が出ても、

「所詮、じゃり番だろ?」

とバカにされたり、

「色が付いて後の仕事に影響あるから、早めに止めた方が良い」

とアドバイスされたりする方もいたとのことです。確かに芝居に関しても、子供たちに解りやすいようにとオーバーリアクション的な演技が求められていました。良くも悪くも「隊員芝居」と言われるその演技を撮影期間中続けていると、若手の俳優たちはそれが身に付いてしまい、次の仕事に取り組むときにその「隊員芝居」が出てしまうとか。
「ウルトラマン・ティガ」(1996〜1997)で女性隊員を演じたが吉本多香美さんが、映画「皆月」(1999)のインタビューで、

「現場で奥田瑛二さんから『隊員芝居するな!』と毎日怒られてました」

とコメントしていました。他にも特撮番組の制作スタッフが一般映画スタッフから馬鹿にされていた頃があったなど、かつて映像業界ではこの「格差」を出す傾向が顕著だったとのことです。
しかし、このようなことは40・50・60代の先輩方々の時代の考え方。筆者の時代では「ジャリ番のヒロインは女優の登竜門」的位置で鉄板の人気が付くし、「後々伸びるだろうと注目される」「固定ファンがいるので業界から消えることはない」という憧れのお仕事になっていました。
むしろ、10代の子役タレントにとっては「是非オーディション受けさせてください!」と頭を下げる、「格下」どころか遥か「格上」のお仕事です。業界での立ち位置が曖昧な、そんな「ジャリ番」の視聴率と人気部分を検証しましょう。
「ジャリ番」の元祖であり決定版といえば、1966年にTBSで放送がスタートした「ウルトラマン」。M78星雲から来た銀色の巨大な宇宙人「ウルトラマン」はシリーズ一作目から大人気で、平均視聴率36.8%、最高視聴率42.8%と、現在のテレビでは考えられないような視聴率を記録しています。
ちなみに、1966年の人気ドラマ視聴率ベスト3は以下。

  1. NHK「おはなはん」56.4%
  2. TBS「てなもんや三度笠」49.4%
  3. TBS「ザ・ガードマン」44.7%

いづれも40%を超える脅威の視聴率です。「お茶の間の王様」だったテレビの黄金期が垣間見えます(視聴率42.8%のウルトラマンですら、ベスト3に入らないのですから!)。しかし、改めてランキングを見ると、当時の人気ドラマは(失礼ながら)忘れられているように思いますが、「ウルトラマン」は48年たった現在でも新作が作り続けられ、親子で共有して楽しめる番組として残っています。
子供の頃に観た「ウルトラマン」のDVD‐BOXを「大人になった父親」が買い、「大人になった母親」は主役男優さんのファンになる。そして子どもは「最新作のウルトラマン」を熱心に見入る。家族で楽しむことができる本当に息の長いコンテンツなのだ、ということを思い知らされます。放送当時からの親子二代に渡っての経済効果を考えたら・・・他のドラマとは比較にならないほどのビッグビジネスといえますね。
「ウルトラマン」は毎回、同じ基地のセット・お馴染みの隊員たちに、毎回違う怪獣や宇宙人が現れて、ハヤタ隊員がウルトラマンに変身して三分で怪獣を退治する「お約束」様式美のシチュエーションドラマ。この「お約束」があるからこそ、普通のドラマでは扱いにくいアイロニーに富んだ重いテーマをも描ける懐の深さもあるのではないでしょうか。
筆者の40・50・60代の友人は、

「子供番組だと思ったら大間違い!侵略や国の利権に絡む重いテーマや宇宙規模で地球の人間は本当に正義なのか?と問いかけがあり…」

などなど、熱く語るり始めると止まらなくなる人が少なくありません。(ここで大きく「ウルトラマン党」「仮面ライダー党」真っ二つに別れて激論バトルになることも必須です。なので敢えてここで「仮面ライダー」には触れません)確かに、多感な時期に影響を受けたら、その思考・思想は一生モノとなりますよね。
先日、「第27回東京国際映画祭」で過去作品が披露され、あの『エヴァンゲリオン』の庵野英明監督(54歳)も学生時代に「ウルトラマン」を演じていたことが話題になりました。10月24日、スクリーン上映された庵野監督のアマチュア時代のその作品は、タイトルもそのまんま「ウルトラマン」(1980及び2014オリジナル再現版)。
庵野秀明氏が総監督兼出演のその作品は、実習課題のようなものではなく、「ウルトラマン」を愛するが故に自主制作をした短編実写作品です。少ない仕送りをやりくりして作られたそうです。

「早川隊員(友人)が変身すると巨大なカントク君(庵野さん)が登場・・・怪獣と戦うカントク君(庵野さん)。スプレーで銀色にして赤いラインを入れたウィンドブレーカーを着込み、ミニチュアの街で大あばれ」

という作品。映画の中で、主演の庵野英明監督は、顔はそのままで眼鏡かけてます。妻である漫画家の安野モヨコさんも、

「あれを観たときの衝撃は忘れられません。マジで困りました・・・」

と漫画「監督不行き届き」でリアルに描いてます。「自分の力でウルトラマンになった男」庵野英明監督のウルトラマンへの熱い想いも痛いほど感じられます(妻のモヨコさんは、別の意味で痛かった様子ですが)。
「ウルトラマン」に限らず、息の長いシリーズ展開をしている特撮番組は、世代をまたぐビックビジネスなコンテンツです。庵野監督がそうであるように、現在の映画業界、テレビ業界などの作り手に与えている影響も決して小さくはありません。経済効果や社会的影響力、歴史を踏まえたうえで、世代や時代を超えて愛され続けている特撮番組は、もはや「じゃり番」とは呼べません。
最近では「子供」を「ジャリ」と呼ぶこともめったにありません。そろそろ特撮番組製作スタッフのモチベーションが上がるような「ポジティブな新しい業界用語」へ変える時期なのではないでしょうか。
 
【あわせて読みたい】