<自警団の復活?>「新しい生活様式」が同調圧力になるとき

社会・メディア

山口道宏[ジャーナリスト、星槎大学教授、日本ペンクラブ会員]

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「必要な検査もワクチンもさせずに、なにがオリンピックですか?!」

「はぁ、協力金ですか。政府よ、おまえはお殿様かと思う。民を泣かせるな、という施しのようで腹が立つ。それって元をたたせば俺たちの税金だぜ 」

と、怒りを隠せないのは、都内の老舗居酒屋の店主だ。

ライフラインにひとの確保がないという決定的な不具合は、即刻に大修繕が必須と「コロナ」が教えてくれた。なにしろ「検査も受けられない」「医者にかかれない」「入院もできない」の四面楚歌に、ひとは面食らい、途方にくれた。これだけで「ひとりとして取り残しがあってはならない」という生存権の保障が揺らいでいる。

英国も「コロナ」被害は甚大で、火種はもっぱら高福祉の後退が背景にあるとの認識が色濃い。1948年に始まった「ゆりかごから墓場まで」は2000年代初頭にはいると陰りをみせ、政治は新自由主義を志向し「市場化」を唱えた。2012年には「医療・公的介護法」が成立。公衆衛生の予算は削減され続けた。

「いのちを守ってください」は海を超えて共通していた。

「ハグ、ハイタッチ、握手もいけません」もまた、国境を超えた。

「2歳の子がマスクですから」と公園の砂場で子どもを見やる若いママがぽつりとそういった。どうやら幼児にまで「マスク文化」が定着したらしく、だれもが複雑な思いで「新しい生活様式」の始まりを知った。100歳の爺もマスクをするから、いまや一億総マスクの時代。国は「ウィルスと共生する社会」と言い放ったなら、大人は子どもにどう諭したらいいのか。

[参考]<怪しいワクチン供給>菅政権は「奇跡」を実現できるのか?

「仲良くおててつないで」「お話をいっぱいしましょうね」から「てはつながないこと」「ゴハンのときも黙ってね」は、将来の語り草になるかもしれない。

また今度は、大人から子どもまで「目」の疲れが心配だ。

「長い時間テレビをみていては目に悪いから」「テレビゲームは30分で終わりにしましょ」は、どの口が言ったことか。「ステイホームだ」という。ひとにとって外出は「必要な営み」だけに潜在的な孤立感、喪失感は大きい。QOLの低下は計り知れず、「外出自粛」が長引けば恐怖は感染ばかりでなくそれ以外の死者数も増加しているから、いやはや滅入る。

「コロナ関連死」とはコロナ感染以外の死者を指すが、地震発生後に発生した二次被害を思い起こすと理解が早い。それは、政府が主導する「ステイホーム」と「テレワーク」に特徴づけられる「生活様式」の変化が人間の健康に悪影響を及ぼす、と伝えるレポ―ト(『選択』2020.8 コロナ関連死 米国医師会雑誌 JAMA)もあったから気が気でない。

食べ過ぎ、座り過ぎ、運動不足にみる「コロナ肥り」「筋力低下」に、加えてアルコール依存、受診控え、検診遅滞など指摘される。長期になればその様相は剣が峰に立つ。

「新しい生活様式」にぬくもりはあるのか、癒しはあるのか。ひとは新しい人災に馴れるのか、それとも新たな分断が生まれるのか。

コロナによる「新しい生活様式」への落としどころが怪しい。

そして、おいおい本当かよ!の報道だ。自警団の復活だ。「客がスパイになるのか 税金の無駄 覆面調査 店困惑 神奈川県 マスク飲食新制度」(毎日新聞2021.4.29) という。密告助長は「県民モニター」を使っての <なりすまし調査> を意味する。なんと、そこへ税金投入1.36億円とも。これでは、神奈川県黒岩知事は、自警団の首長だ。コロナを抗弁に戦前回帰を彷彿させるかのような今回の「対策」に、「これって、神奈川県民は、行政によって、自らの税金でお互いを監視し、いよいよ自由を奪われるのを待つばかり」とは、ある東京都議。

「県民が、県を監視するのならわかるけど」(同)と念を押した。

自粛が自警へと、同調圧力が身近な地方行政に蔓延し始めたか。コロナ対策では自治体首長の能力と判断が試されている。

 

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