<実録TGC:最終回>東京ガールズコレクション創業者が語るTGCからNFTへ

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メディアゴン編集部

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新しい投資? 新しいアートビジネス? それとも・・・? 今、何かと話題のNFT。そんなNFTに東京ガールズコレクション創業者である大浜史太郎氏(Jake Ohama)が「NFTデジタルアートムーブメント」プロジェクトを掲げ、オランダ、シンガポール、英国から本格参入する。ファッション業界で成功を納めた大浜史太郎氏だけに興味は尽きない。ファッションからNFTに参入する意図と狙いは何か。本稿では、東京ガールズコレクションからコロナ禍を経て、NFTへと至る経緯を、メディアゴン編集部が、大浜史太郎氏に直接にインタビューした。東京ガールズコレクションの知られざる歴史についても詳細に語ってもらった貴重なインタビューをぜひお読みください。
(全て大浜史太郎氏に直接取材。全7回)

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[第6回https://mediagong.jp/?p=33398から続く]

2022年2月22日に、東京ガールズコレクション創業者である大浜史太郎氏によるNFTプロジェクトに関する正式発表がリリースされた。UNCONDITIONABLE PROJECT」と命名された大浜氏によるデジタル芸術運動。キーワードは「UNCONDITIONABLE」。「unconditional:無条件」と「〜able:できる」を掛け合わせた言葉だという。

この「UNCONDITIONABLE」は英語を母国語とする人たちでも、普段の生活ではほとんど聞き慣れない英単語であるそうだ。明確な日本語の意味での真意には語らなかったが、日本語で言うところの「無条件のプロジェクト」と、敢えて簡略化して表現できるかもしれない。コンセプトには、蓋然的無条件性指向(probabilstic unconditionality-oriented)を掲げている。

なかなか抽象的でいささかとっつきにくい感もあるが、実は、目指していることはシンプルなのだと大浜氏は熱弁です。今回のプロジェクトを、このように命名した理由を大浜氏は「既存の『unconditional (無条件の)」という言葉を使いながらも、あえて新しい定義を付け加えて世界に提議したいと思いました」(大浜氏)と語る。

「UNCONDITIONABLE PROJECT」を正式発表した2月22日、大浜氏は広島にいた。広島といえば、原爆により、日本が「無条件降伏」をするきっかけとなった土地でもある。ホームページのメッセージには広島から宣言とあり、「From unconditional surrender to unconditionable heart (無条件の降伏から、無条件の心へ)」とも記述されている。しかも、発表したのは2022年2月22日の22時22分22秒というこだわりの入れようだ。
その意図はいったい何か。大浜氏は次のように説明している。

「これは、こだわりというより、『今、この瞬間』を意識することのきっかけになれば良いと思いフォーカスをあててみました。こういうゾロ目のシンクロニシティって、次は200年後の2222年まで無いのですね。いまさら当たり前ですが、人生とは一瞬一瞬の連続です。あえて、1秒1秒・・・一瞬一瞬の大切さをクローズアップさせるために、ハイライトさせてみました。また量子物理学的な視点でみると、私たちの現実とは一瞬一瞬の写真のようなフレームの連続だと言われている。その観点からも、あえて2022.2.22.22:22:22という表記がメッセージの一つにもなりました。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻などによる世界的な戦争の緊張が高まっている危機の時代だからこそ『無条件の心を思い出して、互いに傷付ける事なく、豊かな世界を築けることを気付いて欲しい」(大浜氏)

東京ガールズコレクションや神戸コレクションなどファッション業界で一世を風靡し、zozoタウンの誕生のはるか以前から、携帯電話のでアパレルeコーマスを成功させてきたことで知られる大浜氏。NFTやデジタルアートと聞くと意外に感じる人も多いのではないか。大浜氏は、なぜあえてこのタイミングで、次なるビジネスフィールドとしてNFTでのデジタルアートムーブメント(芸術運動)を目指すのか。

「これから混沌とした今の世界の流れは落ち着くどころか、ますます怒涛の勢いで二極化、三極化・・・と加速して、あらゆる並行世界へ分化していきます。量子論的な視点で見れば、観測者のそれぞれが信じる並行世界へ向かう、まさに『突入前夜』のような時代なのだとも言えます。今は『新しい地球』を産むためのお産のような時期なのかもしれません。アートやファッション、金融から暗号資産まで、今後、既存の『豊かさの定義』はすべてが解体されてゆくでしょう。それらの枠を超えて、果たして、人生の『価値と無価値の価値』とはいったい何なのか? また、『条件と無条件の条件』とは何か? を背景に、もう一度、無条件な視点で、ニュートラルにまっさらな視点で、世界を観測し、仲良くしていける気付きを与えるきっかけを提供できれば良いなと考えています」(大浜氏)

そんな大浜氏の「UNCONDITIONABLE PROJECT」が展開するNFTデジタル芸術運動の第1弾はNFT短編アニメーション映画「櫻姫物語ー無条件の花ー」である。大浜氏自身が原案・監督を務める。本作は1940年代の広島が舞台。広島の山奥のお城で隠れて暮らしていた桜の妖精のお姫様の物語だ。この物語は原爆前後の日本を捉えたファンタジーアニメーションとして描かれているという。コロナ禍後の世界を私たちがどう生きていくのかを考えさせられる、人類が共通して直面している苦悩と挑戦がテーマ。

[参考]広島を舞台にNFT短編アニメ映画『櫻姫物語』大浜監督が語る

さて、このアニメーション作品とNFTはどのように連動されるのか。製作委員会によれば、本作の各シーンで描かれる美しい桜や花々、そして登場人物のキャラクターなどが、NFTでプロモーション展開していくという。アニメーション映画を構成するさまざまなパーツ、要素がNFTのデジタルコンテンツ化されるというわけだ。誰でもが作品パーツの所有者になれる非常にユニークな試みである。

ファッションの印象が強い大浜氏ではあるが、実はこれまでも芸術活動やアートコンテンツとコラボした仕事は決して少なくない。東京ガールズコレクション(TGC)ではかつて、世界的な現代アーティストの村上隆氏とファッションとアートのコラボレーションをしたこともある。グローバル展開という意味では、東京都やJETRO(日本貿易振興機構)、経済産業省などのによる後援を受け、パリや北京から、国連本部まで招待を受けて披露し経験もある。日本の若者ファッションを、単なるアパレルから、日本を代表するアート作品、カルチャーとして根付かせることに成功をおさめてきた。

2011年から大浜氏が海外を中心に実験的に開催してきた、ファッションイベント「WORLD RUNWAY」は、シンガポール政府やケニア政府からの依頼と後援で開催した。そして今回のプロジェクトは既にヨーロッパ各国の政府機関とも交渉し始めているという。

大浜氏は続けてこう語る。

「もう『グローバル』という単語さえ、死語で意味が無くなってきています。ネットのおかげで、どんどん地球は狭まっています。東京どころか、日本全体が既に『地球の単なる地方の国』にもなっています。かつて日本の戦国時代には、同じ国内で争っていましたが、もはや昔の笑い話です。同じように、いまは同じ小さな惑星の中で、同じ人間同士が争っている。100年後の地球人が見たら、それこそ壮大で滑稽な笑い話です。ファッションでもアートでも、金融でもSNSでも、全てのプロジェクトはこの小さな惑星で『私たちはこれからどう互いに傷つけあうことなく共に生きていけるのか』を考えなくてはいけない段階にきています。ですから『世界をなんとかしよう』みたいな特別な意識というよりは、プロジェクトを淡々と進めた結果として、世界の垣根や意識の壁を取り除いていければ良いなと思っています。一見すると、芸術運動って堅苦しく聞こえるかもしれません。しかし、欧米では何よりもコンセプトやテーマ、そしてコンテクスト(文脈)が重要視されます。しかもその感覚はアートだけでなく、ビジネスにおいても同じです。日本ではなかなか理解されづらいかもしれませんが、そこがポイントです。今回のコンセプトである『蓋然的無条件性指向』とは、僕たちが考えるビジネスや金銭だけにとらわれない、NFTを媒介とした新しい芸術的視点の運動としての問いかけです。」(大浜氏)

NFT分野への本格参入を表明した大浜史太郎氏。これまでのファッション業界での実績と知名度が大きすぎるだけに、今回のNFT本格参入は非常に難解にも感じる。一方で、海外を射程にしたコンセプチュアルな動きは、大浜氏ならでは。今回のNFTプロジェクトは、TGCがかつてそうであったように、『時代は後からついてくる』という現象になるのか。今後の大浜氏の展開に注目したい。

 

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