舞台「江戸のマハラジャ」インドと江戸の下層階級の交流を描く【ネタバレ注意】
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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座・高円寺1で、扉座公演『江戸のマハラジャ』を見た。我々日本人には群舞が魅力のインドダンスの高揚を見るべき芝居である。
江戸の長屋に船で流れ着いたインド人たちが、もう7年もすんでいた。インド人たちは同じ庶民どうし長屋の住人たちに溶け込み仲良くくらしている。そこに、長屋でインド舞踊が流行し、仕事を失った日舞の師匠(三宅祐輔)と、肥え担ぎから身を起こした岡っ引きの亀吉(岡森諦)がからんでくる。
亀吉は、役目上、禁を犯したインド人たちを捨てておくことが出来ない、というお話であるので、これは異文化の交流という話になるのか・・・と思うと、作演出の横内謙介の脚本がそれを気持ちよく裏切ってくれる。
役者たちは脚本に書いていないことをたくさん勉強しなければならない芝居であっただろう。ヒンドゥー教であるインド人の身分制カースト。バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、スードラ。その下のアチュート(不可触民・アンタッチャブル)・・・などなど。しっかりと理解しておかねば、芝居での扱うことは難しいはずだ。
江戸のインド人たちは王や貴族とも話が出来るクシャトリヤとそれ以下のカーストの混合であったようだが、主人公ランガ(砂田桃子)の父であるハッサン(犬飼淳治)はインドの下層階級の出身。両者にはインド人どうしでも軋轢が生まれそうである。
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江戸庶民の側の下層階級といえば、岡っ引きの亀吉。前述したように肥え担ぎ出身である。ただ世田谷当たりからやってくる肥え担ぎは百姓であり、長屋の住人から野菜などを代金替わりに下肥を買って感謝されたはずである。岡っ引きの手下の小者は屑屋の出身だが、こうした屑屋も循環都市江戸では一定の地位を持っていたと思われる。
長屋の住人は商家や職人の奉公人である。いわゆるサラリーマンなのだが、その日稼ぎの職人商人であることを考えれば、大家を除くとこのあたりが江戸では最下層かも知れない。
つまり、この芝居『江戸のマハラジャ』はインドの下層階級と江戸の下層階級の交流の物語なのである。そう見てくると脚本の緻密さに気づかされるのである。
ところで、今回ひとつ物足りなかったのは、インドダンスに対抗する日舞の総踊りが見られなかったことある。そして今回の発見は与力役の平右衛門(野田翔太)、一人大阪弁のセリフをもらって演じる軽い芝居は出色である。
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