<大阪に「ハマのドン」はいないのか>「関西・大阪万博で能登復興」という不適切発言を叱る

政治経済

山口道宏[ジャーナリスト]

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横浜市議だった菅義偉総理(当時)にとって藤木は大恩人。だが、菅はIR推進、藤木は反対派、2人は袂を分けた。2021年8月横浜市長選。結果は立憲民主らが推すIR反対の元大学教授の山中竹春が自民らの推す地元・小此木八郎衆院議員を大差で破った(菅総理が応援するも小此木はIR反対を表明。自民党県・市連は分裂まま選挙に)。

「ハマのドン」というドキュメンタリー映画がある(松原文枝監督2023年公開)。テーマは「主権在民、主権は官邸にあらず」。そこには命がけで横浜カジノを阻止すると立ち上がった地元財界の重鎮・藤木幸夫91歳の姿があった。松原監督は「カジノ構想に声高に反対する保守の有力者」と、その勇気と矜持をたたえた。

藤木は市民と共に人生最後の戦いに打って出た。横浜港運協会会長の藤木がカジノに反対する理由はただひとつ。家族崩壊、市民社会がおかしくなるから。というのも多くの港の労働者が博打にはまった時代をよく知るからだ。「横浜をカジノの街にしてはならない」と91歳は市民とともに懸命に声をからした。

[参考]コロナとウクライナの背景

ところで先日、維新の会(維新)馬場伸幸代表は「関西・大阪万博は能登の復興につながる」と言い放った。遠い話ではない。それは「東京五輪は東北復興に」とそっくりの弁法だ。2025年開催予定の「関西・大阪万博」が今回の能登大地震で哭いている数万人の被災者に元気をもたらすというのだ。

この発言に当該の石川県馳知事は怒るどころか「やるべきだ」と語った。震災死や負傷者、その家族をはじめ、住み慣れた家屋は壊れ、水を求め、寒中に避難所や車中泊、体育館やビニールハウスで過ごす人々は、それを聞いて何を思うのか。馳知事は地震被災地の首長だ。同知事の被災当事者への共感的理解は甚だ乏しいと言わざるを得ない。

しかし、そんな喧伝も人工島をふくむ「万博」の跡地はIRに転用することに触れないのだ。「万博」予算は政府発表で8390億円とか(2023年12月現在)、それだけでも驚きだが「万博」後を見据えたIR建設のインフラ整備を加えたなら約9.7兆円。すなわち、「万博」とIRは同時進行の一体の巨大プロジェクトだ(「IR整備法」・特定複合観光施設区域整備法2018・安部政権)。財界の一部を除けば、すべての経費が国庫と大阪府・市の負担だが、それにより今後、国と大阪府・市は本来必要な行政支出の何をどれだけ削るのか、いまから懸念されている。一方でまた、「五輪利権」と同様に「万博特需」に関する噂も出回っている。

「大地震でも万博」は「コロナでも五輪」と似ている。

始まる前から経済効果が心配される「万博」だが、前出の馬場伸幸維新の会代表は、「万博」で赤字が生じた場合、誘地してきた維新はどうする?  の質問に「政治的な責任はある」「責任の取り方は維新のメンバーで協議して決めたい」「国と大阪府・市、経済界の3者で話し合ってもらわなければならない」と答えている(2024年1月16日、日本外国特派員協会)。「責任の取り方」発言は海外へ配信済だが、馬場代表はいつから「万博」の主催者になったのか?  「未来社会の実験場」が「関西・大阪万博」のコンセプトだ。

さきの海外メディアの質問にあるように、大赤字覚悟の「万博強行」と並行して出口のない 「カジノ禍づくり」 に多額の血税投入という事実だ。日本国民全体、とりわけ大阪府・市民は「自縄自縛の途」を歩むのか。大阪には「ハマのドン」はいないのか。

 

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