<プロを支援するプロ(1)>士業・医業専門の経営コンサルティングファームの魅力
岡部遼太郎(ITコンサルタント)
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士業・医業といえば、日本では、高度な専門性を有するエリート職という印象だろう。アメリカのように、日常生活のあらゆる場面に弁護士が関わり、その数も110万人にものぼる国と比べれば、弁護士を中心とした日本の士業は、まだまだ特殊な職業かもしれない。
アメリカのように、あらゆる法的な仕事を弁護士がそれぞれの専門性を活かして担っているようなケースと異なり、日本の場合「それぞれの専門家」が士業として個別の資格を有して活動していることを鑑みれば、「日本の士業全体=アメリカの弁護士」と考えることもできる。
その考えで計算すると、日本の代表的な士業である「10士業(弁護士・弁理士・税理士・司法書士・行政書士・公認会計士・社会保険労務士・土地家屋調査士・中小企業診断士・不動産鑑定士)」と呼ばれる職業にある人数は、およそ34万人である。この人数は、アメリカの弁護士110万人の30%程度になる数である。
これを人口比率に当てはめれば、日本の人口約1億2600万人は、アメリカ人口約3億3500万人の37%となるので、概ね日本の士業者の割合はアメリカの弁護士の数とそれほど違いはないことがわかる。
生活のあらゆる場面で訴訟が起きるアメリカでは、弁護士も過酷な競争社会に生きている。資格がとれれば安泰・・・というものでもなく、アメリカでは町中の弁護士の広告ポスターがはられ、弁護士のテレビCMも多い。弁護士ですら、ブランディングやマーケティングなどに大きなエネルギーを割き、生き残りをかけた勝負をしている。
一方で、人口比率的にはアメリカの弁護士とさほど差のない日本の士業の方々といえば、まだまだ守られた存在という認識が強い。積極的に広告を打ち出したり、一般企業のようなブランディングをすることに否定的な士業も少なくない。積極的にビジネスを打ち出すことを露骨に嫌がる士業・医業すらいる。
しかし、士業とて、生き残りをかけた過酷な競争社会にいるわけで、本来であれば、アメリカの弁護士社会のように、積極的なブランディングやマーケティングに取り組まなければならないのだ。これは、医師でも同様だ。厳しい言い方であるが、必死の勉強で士業の資格を取得したり、医師になったような人ですら、過酷な競争に負けてしまい、廃業したり、倒産するような事例も珍しくない。資格を取得する前に想像していたような収入を得られず、落胆している士業・医業は、数えられないほど存在している。
日本もいよいよ資格を取得すれば安泰という時代は終焉を迎えたと言えるのかもしれない。近年では、日本でもコンサルティングファームやブランディング企業に依頼をする士業や医師も増加している。しかも、そのような依頼をしたかしないかで、大きく結果が異なるという明確なエビデンスも出ているという。
例えば、本誌5月29日配信の「<日本を美容医療大国に>業界を牽引するカリスマ医師に聞く(1)美容医療の信頼性」で紹介した河合成海医師もその一人であると聞いて驚かされた。河合医師の率いるAND medical group(東京都港区 代表者:草野正臣)が、4年間で27ものクリニックを開院できた背景には、現場最高峰のコンサルティングファームの力も少なくなかったという。
AND medical groupのコンサルティング、ブランディングを担当したのは、2008年創業の株式会社スタイル・エッジ(東京都新宿区 代表取締役:島田雄左)である。同社は、士業・医業の専門家たちに特化した総合的コンサルティングファームとして、日本を代表する企業の一つだ。創業16年という年月は、この分野では老舗と言っても良いだろう。
スタイル・エッジ社のクライアントである士業・医業の方々は、いうまでもなく、それぞれの分野での専門家たちである。一方で、その道のプロフェッショナルであるからと言って、事務所や医院の経営のプロフェッショナルではない。むしろ、高度な専門性があるからこそ、「実力があれば客は来る」と思いがちであり、その能力が高ければ高いほど、逆に、ブランディングやマーケティングには関心がなく、結果的に経営が疎かになってしまっているケースは少なくない。士業・医業として実力に、経営・売上が伴っていない「残念な事例」は多い。
そのような、いわば「専門家だからこそ抱える課題」をコンサルティングの新しいビジネスチャンスにしているのがスタイル・エッジ社というわけだ。もちろん、そういった盲点だけを単に突いているわけではない。実際に、スタイル・エッジ社が多くの第一線の実力を持つ士業・医業の方々と接触する中で、その高度な専門性とは裏腹に経営に関しては課題を抱えているという現実を目の当たりにした経験に裏付けられている。
我が国においてはこれまで、士業や医業といった専門性の高い、特殊な業種を支援する土壌が十分だったとは言えなかった。一般的なコンサルティングなどとは異なり、高い専門性がゆえに適切な支援が容易ではなく、クライアントとして開拓がされづらかった、という現実もある。そのような「未知の市場」が抱える課題にスタイル・エッジ社は気付き、切り込んでいった、というわけだ。
代表取締役を務める島田雄左氏は、自身が司法書士として士業にありながら、24歳の時に司法書士事務所を開業、短期間で日本でもトップ規模の士業グループに成長させたという実績を有している。士業であり、士業として起業した経営者だからこそ、士業・医業への経営支援という難しいクライアントへの実践的なサポートが可能となったわけだ。同社の役員の中には士業も複数含まれ、現場を知る経営陣となっているのも特徴だ。
とはいえ、「先生がた」ばかりを相手にした小難しいペーパーワークばかりの会社なのか・・・といえば決してそうではないという点も同社のユニークなところだ。同社はインフラ事業、マーケティング事業、システム事業、コンサルティング事業を柱として持っている。
単に開業支援や経営サポートをするだけではなく、必要となる機材やオフィスの手配、初期投資の課題解決など、開業前の物理的な戦略にも参画する。もちろん、デザイン実務からIT関連業務、システム開発・運用なども、しっかりと対応しているので、経営コンサルというよりは、士業・医業業界の「統合サポート企業」といった趣だ。
そのため、士業・医業といった小難しい印象の業界をクライアントとフィールドにしてはいるが、社員たちは若く、クリエイティブセクションなどは、広告代理店かデザイン事務所の雰囲気すらある。だが、やっている仕事、対応しているクライアントは士業・医業といった手堅いフィールドであるのは羨ましい限りだ。誤解を恐れずに書いてしまえば、社会的に信用度の高い仕事となっていると言えるだろう。
そして、同社の近年の成長は著しく、15期連続増収で、取扱高145億円、売上30億円だという。巨大な競合ひしめくコンサルティングファーム業界の中にあって、2008年創業の同社が、「未知の市場」を相手に、わずか15年でこの数値を叩き出しているから驚きだ。
本稿では、これまで日本では盲点となっていた「プロを支援するプロ」としての経営コンサルティングについて、着目し、その代表的な企業としてスタイル・エッジ社を紹介した。もちろん、この領域は今後もますます拡大し、同社のフォロワー企業も増えてゆくことは想像に難くない。
「プロを支援するプロ」としての経営コンサルは、いわばブルーオーシャンであり、クライアント自身が高い信頼性を持つという点もビジネスとしての安定感となってあるのは魅力だ。実際に、スタイル・エッジ社に入社するスタッフたちには、大手コンサル会社やブランディング事務所などからの転職組も少なくない。取材を通して「プロを支援するプロ」という新しい業種、あたらしい職業の可能性を感じた。
次回は、スタイル・エッジ社の代表取締役を務めながら、自身も士業として活躍する島田雄左氏に、「プロを支援するプロ」としての士業・医業専門の経営コンサルという仕事の実際についてのインタビューを掲載する。
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