告別式のような立民代表選
植草一秀[経済評論家]
***
日本の没落が止まらないなかで、また一つの政権が終わる。
2021年10月に発足した岸田内閣。3年もの時間が経過したが過去の流れを変えることはなかった。2012年に第2次安倍内閣が発足して以降、推進されてきた政治の流れを引き継いだだけだった。第2次安倍内閣が推進した政治の流れとは何だったのか。
重要な柱を三つ挙げることができる。
第一は米国への隷従。安倍内閣は憲法解釈を変更し、日本が集団的自衛権を行使できるようにした。同時に自衛隊を米軍指揮下に完全に組み込んだ。
第二に消費税大増税の推進。安倍内閣が消費税率を5%から10%に引き上げた。1989年に導入された消費税の税率は2014年までは税率5%水準までしか引き上げられてこなかった。その消費税率を2014年と2019年の二度の増税で10%にした。わずか5年で税率を2倍に引き上げた。消費税大増税路線が敷かれた。
第三は企業利益拡大の推進。逆に言うと一般労働者没落の推進。労働者一人当たりの実質賃金は2012年以降に8%も減った。10年余りの期間に実質賃金が8%も減少したのだ。その一方で大企業利益は史上空前の水準を更新し続けている。「成長戦略」というのは「大企業利益の」成長戦略、「一般労働者不利益の」成長戦略だった。この安倍路線がそのまま引き継がれてきた。
菅義偉氏、岸田文雄氏が首相に就任したが、上記の三つの基本はそのまま引き継がれてきた。しかし、岸田内閣の支持率は22年秋以降、3割を割り込んだ。最近の世論調査では2割割れにまで支持率が凋落した。このまま次の総選挙に突き進めば、自民党が野党に転落してもおかしくはない。その状況に追い込まれた。
7月7日の東京都議補選では9つの選挙区で自民党は2議席しか議席を確保できなかった。岸田首相の下で次の総選挙に突き進めば自民党は野党に転落してもおかしくない。この観測が強まり、選挙の顔を差し替えるべきとの声が自民党内に充満した。
この声を無視できなくなった岸田氏が自民党党首選への出馬を断念した。日本政治を一新するチャンス到来である。ところが、その期待が一向に盛り上がらない。
主因は野党第一党の停滞。自民党と立憲民主党は9月に党首選を実施する。状況によっては政権交代の気運が高まり、次の総選挙で政権交代が実現してもおかしくはない状況。ところが、二つの政党の党首選の状況を踏まえると、政権交代の気運は高まるどころかしぼみ始めている。
自民党は党首選に新しい顔を何人も浮上させている。40代の有力候補が二人も擁立される見通し。誰が党首になろうが自民党の体質は変わらない。
これが衆目の一致した見方だが、雰囲気としての「刷新「感」」は演出されている。これに対して立憲民主党の党首選は通夜か告別式の感が強い。ネガティブ・サプライズ。
くすぶった党首選を実施して自民党総裁選を盛り上げることを狙っているとしか思われない。
1.米国の僕(しもべ)としての日本
2.消費税大増税路線の堅持
3.大企業利益拡大だけを目指す経済政策
これに対して、明確な対立軸を示すのが野党の役割ではないか。これでいいのか。事態を是正するには主権者である国民が動くほかはない。
【あわせて読みたい】