日本経済低迷と株価乱高下
植草一秀[経済評論家]
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ウクライナやパレスチナで戦乱が続き、日本では酷暑と水災害が国土を覆い尽くすなかでパリ五輪が開催されている。パレスチナのみならずイスラエルやウクライナも五輪に招待されているのにロシアだけが排除されている。
平和の祭典と言いながら政治と打算の産物でしかない側面が浮かび上がる。柔道の角田夏実さんが日本人として夏季五輪500個目のメダルを金メダルで獲得すると、岸田首相が祝福の電話をかけ、これをNHKが報道する。
五輪の政治利用そのもの。スポーツの醍醐味を損ねる興醒めな演出。五輪は平和の祭典、スポーツの祭典で国威発揚の場でも政治利用の場でもない。国ごとの獲得メダル数競争は五輪精神に反するもの。五輪に力を注ぐ前に戦争を終結することに力を注ぐべきだ。
JTB調査によると本年の夏の旅行者数は昨年比減少の見込みだという。コロナ統制が解除されて2年目の夏。観光が活発化しておかしくない状況だが、活発なのは外国人の訪日だけで日本国民の消費活動は振るわない。
史上空前の日本円暴落で海外旅行は高嶺の花になった。各地は訪日観光客で溢れ返るが訪日の最大の原因は日本円暴落である。観光業者は潤うが一般市民は過剰な訪日観光客の影響で生活に支障を来している。
岸田内閣は年初の能登半島地震後に「北陸応援割」と銘打った旅行への利益供与策を実施したが、もっとも被害を受けた能登半島の観光地は除外されたまま。倒壊家屋は放置され、いまだに水道すら復旧していない家庭が多数存在する。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」さえ守られていない。
水族館を再開するよりも被災地住民の生活を回復させることが優先されるべきである。酪農などの一次産業が崩壊することに対する公的支援も十分に施されているとは言えない。こうしたなかで株式市場で株価乱高下が観察されている。
私は、昨年初に『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社)、本年初に『資本主義の断末魔』(ビジネス社)を上梓した。
昨年年初、日経平均株価は2万5000円台だったが、金融波乱を乗り越えて3万6000円に上昇するとの予測を表紙に明記した。予測通り、日経平均株価は本年1月に3万6000円に到達した。
本年初の『資本主義の断末魔』では、日経平均株価の史上最高値更新、4万円達成を予測したが、あっさり3月に実現した。
筆者は、経済金融市場分析レポートである会員制レポート『金利・為替・株価特報』を月に2回発行して金融市場変動予測を提示しているが、このレポートでは3月以降、日経平均株価が38000円から41000円のボックス相場を軸とする変動に移行するとの予測を示してきた。
このなかで、日経平均は5月30日37617円から7月11日42426円まで1ヵ月強で4809円の急騰。この点について7月16日発行のレポートで、「日経平均は5月30日37617円から7月11日42426円まで1ヵ月強で4809円の急騰を演じたため、スピードに対する調整が入る可能性を否定できない。7月中旬以降の株価調整圧力に警戒が求められる。」と記述した。
7月30〜31日に日銀政策決定会合が開かれ、ここで日銀政策の修正が決定される可能性があり、その思惑が広がるために7月後半に日本株価が下落する可能性が高いことを予測したものだった。
「日銀は政策修正すべきでない」
「日本株価は暴落する」
との主張が散見されるが、いずれも妥当でないと思われる。日銀の最大責務は物価安定。そのために、適切な政策修正を断行するべきである。株価の行き過ぎたスピードでの上昇には当然のことながら自律修正が生じるが、この変化は想定の範囲内のもの。企業集積動向から得られる主要株価指標において日本株価が理論値からかけ離れた高値を形成しているとは言えない。
冷静に金融市場変動を解析する必要がある。
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