<現場に出来ることは良識ある記事を書き続けること>池上彰氏のコラム掲載を巡る「朝日新聞」の迷走と希望

社会・メディア

榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]

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朝日新聞が一度は掲載を拒否した、池上彰氏の連載コラム。 どれほど厳しく慰安婦問題の誤報を追及しているのかと思いきや、 ごく普通の内容だった。
これで掲載できないとすれば、 同紙は“社会の窓”としての新聞の品質を自ら貶めているようなものだ。現場に身を置き、他人の痛みに寄り添う 誠実な記者たちが大勢いることを知る身としては、この大組織の対応のお粗末さとの落差に戸惑う。
なぜ池上氏のコラムを「掲載拒否する」判断が一度は働いたのか? 組織の上の方で“頬かむりしたい”という原理が働いているのではないか? 朝日新聞社の、このところの企業としての対応はとても残念だ。
その一方で、すぐに社内で判断を切り替え、記事掲載を決めたことに、 かろうじて、組織の中に“わずかな光”があるとも思いたい。
社内では一連の社の対応に対して、内部批判をする記者も大勢いると聞く。  外から汚い言葉で罵(ののし)るだけでは、組織は改善されない。 逆に「組織を守る内向きの論理」がより強く働いて、殻に閉じこもってしまうことも ある。
冷静な批判と改善を促す“風”を送る姿勢。 内部で「改善」を目指す《わずかな光》にエールを送ることも、 “頬かむり”を是正させる近道なのではないだろうか。  日ごろ権力や他者に対して厳しく対峙する新聞だけに、 朝日は自らを律する姿勢をしっかり見せてほしい。
そして現場の記者諸君たちは、 陰でいくら悔し泣きをしても、 表では、社会の木鐸として良識ある記事を書き続けて、 何年かかってでも、 読者の信頼を取り戻して欲しい。それしか、現場に出来ることはない。
 
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