<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑬新しいツッコミの言葉を考えろ。落ちの音は「らりるれろ」
高橋秀樹[放送作家]
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東宝映画『雲の上団五郎一座』(1962年・昭和37年公開)は、DVDも、VHSさえ、発売されていない。
日本の笑いの歴史を振り返るにあたって、貴重なエポックメイキングの映画のはずなのだが、おかしいと思う。それとも、映画は舞台より格段に出来が悪いから、必要ないということだろうか。作品を探し出す間、違う話をしておこう。これも笑いにとっては重要な話だ。
フジテレビで『よ!大将みっけ』(1994〜1995)という番組をやっていた1994年頃だ。大将(萩本欽一)から「作家全員招集」の号令がかかった。こういう時は行けないと「あいつが運を使っている」ということになるので、何をさておいても駆けつける。
折悪しくTBSで、欽ちゃんを担当するプロデューサーの結婚式だったが、事情を話して会議に出かけた。すると大将は、
「新しいツッコミの言葉を考えてくれ」
という。意味がわからない。雁首揃えた作家3人は何も思いつかない。あれから少し経って、なんのことか、手がかりだけわかるようになったが、本当ののところはどうだかわからない、思い切って聞いてみる。
「大将、『新しいツッコミの言葉』ってどういうことだかさっぱりわかりませんでした」
「いつまでもスマホやってろ」とか、「お前はパワハラか」とか、ただ新しい言葉が入ったものでないことは最低わかる。さらに大将の場合、今まで書いてきたように、ボケの話を終わらせるための、「やめなさい」とかの、ただの落としの言葉ではない。ツッコミは「止まり振り」、言ったことで「ボケ」のお動きをさらに広げるものでばければならない。・・・となるともう分からない。
ところがある日、閃いた。こういう言葉かもしれない。10年かけて思いついた『新しいツッコミの言葉』を大将の前で言ってみる。
「ひとつ思いついたんですけど」
「何? 言ってみてよ」
「『ビミョウ』って、言うんですけど」
「惜しい」
「『微妙』なら、いい時も悪い時も使うし、ボケはどうでも動ける」
と僕は勢い込む。
「そこはいいんだけどね、ツッコミの言葉の原則にあってない」
「原則ですか」
「お前、知らなかったか。ツッコミの言葉は、語尾が『らりるれろ』か『かきくけこ』『だぢづでど』」
「聞いたことありますが、流してました」
「ダメダメ。『いいかげんにしろ』『だめだこりゃ』」語尾が強く聞こえるんじゃなきゃダメ」
「僕はツッコミを柔らかにするために女ことばにすることもあるけど、その時も言葉は『ダメだ』って強い語尾で言ってから、『ダメだ(間)ってばあ』ってやる。『ばかっ(間)なのね』だ」
奥が深い、やっと『新しいツッコミの言葉』の意味がわかった。で、安心した。
タレントも古くなると、時代には置いて行かれる。時代に置いて行かれるのは嫌なのだろう、新しいこと、流行、新しい歌なんていうのを求めてくる。でもそれは、「似つかわしくない」「痛々しい」「逆に時代遅れ感を倍加する」。たとえ笑いの人であっても、年齢相応にやればいいのだと思っている。
だから、大将が『新しいツッコミの言葉』で、そういうことを求めているのではないとわかって安心したのである。
(インタビューその⑭につづく)
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