義家弘介氏の面白すぎる随筆読解に池澤夏樹氏まっとうな反論

政治経済

保科省吾[コラムニスト]
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そのコラムは小説家池澤夏樹氏の次のような文章で始まる。
(2014年12月2日朝日新聞夕刊より引用。以下、「」部分は引用)

「前衆議院議員の義家弘介さんが産経新聞で僕の文章を論じてくださった。」

実に慇懃で不穏さを感じさせる始まりである。高校教科書に採択されていた、池澤氏の随筆「狩猟民の心」に対し、義家氏は「これは子供たちに供するにはふさわしくない」と評したのだそうである。池澤氏の随筆は以下の様なものである。

「日本人の(略)心性を最もよく表現している物語はなにか。ぼくはそれは『桃太郎』だと思う。あれは一方的な征伐の話だ。鬼は最初から鬼と規定されているのであって、桃太郎一族に害をなしたわけではない。しかも桃太郎と一緒に行くのは友人でも同志でもなくて、黍団子というあやしげな給料で雇われた傭兵なのだ。更に言えば、彼らは全て士官である桃太郎よりも劣る人間以下の兵卒として(略)、動物という限定的な身分を与えられている。彼らは鬼が島を攻撃し、征服し、略奪して戻る。この話には侵略戦争の思想以外のものは何もない」

この髄筆に対する義家氏の意見。

「わが国では思想及び良心の自由、表現の自由が保障されている。作者が作家としてどのように表現で思想を開陳しようとも、法に触れない限り自由である。」

このあと批判しますからね、思う存分。という気持ちのこもった名文である。
「しかし、」来ました。来ました。逆接。

「しかし、おそらく伝統的な日本人なら誰もが唖然とするであろう一方的な思想と見解が」

「一方的な思想と見解」が、何を指すかというと、池澤氏が前述した文章全体である。

「公教育で用いる教科書の検定を堂々と通過して、子供たちの元に届けられた、という事実に私は驚きを隠せない」

(日本人なら誰もが唖然とするであろう一方的な思想と見解かどうか)を判断するのが教科書検定で、これは義家氏にとって教科書検定を通ってはいけないシロモノだったということである。義家氏の文章は続く。

「例えばこの単元を用いて、偏向した考えを持つ教師が『日本人の心性とはどのようなものであると筆者は指摘しているか。漢字4字で書きなさい』などという問題を作成したら、生徒たちは『侵略思想』と答えるしかないだろう」

筆者はこの文を読んで声を上げて笑ってしまった。このような問題をつくる国語教師は偏向しているのではなく能力がないのだろう。
義家氏の論評とは別に、池澤氏は自分の書いた随筆にある反省をしている。

「『日本人の心性』というのは間違いだった。悲しいことながら『人間の心性は』と書くべきだった。」

義家氏の文章、大変面白いので、もう一度まとめてご覧いただこう。

「わが国では思想及び良心の自由、表現の自由が保障されている。作者が作家としてどのように表現で思想を開陳しようとも、法に触れない限り自由である。しかし、おそらく伝統的な日本人なら誰もが唖然とするであろう一方的な思想と見解が公教育で用いる教科書の検定を堂々と通過して、子供たちの元に届けられた、という事実に私は驚きを隠せない」

義家弘介氏は、元ヤンキー先生。第1次安倍内閣で教育再生会議委員、第2次安倍内閣で文部科学大臣政務官。
 
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