<日本テレビ「学校のカイダン」の魅力>女優の階段を登り始めた広瀬すずの演説の力に注目

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水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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「強い者にとって、学校は楽園。でも、弱い者にとっては、そこは地雷だらけ。戦場だ。」「もし少しでも動いたら標的になる。その時には戦って、すべてをぶち壊せ!これは世界で一番弱虫の反逆者のお話」
日本テレビの土曜ドラマ「学校のカイダン」は、そんなナレーションで始まった。
かつて「青春とはなんだ」、「これが青春だ」などの青春学園ドラマシリーズで一世を風靡した日本テレビが、TBS「ごめんね青春!」にその座を渡してなるものか、とばかりに渾身のドラマを創りだした。
学校には、「クラスで目立つ子」というカテゴリーがあった。運動、勉強、ルックス、親の仕事、趣味まで、ちょっと上に見られるグループだ。
他方、底辺に位置するグループもいる。イケてなくて内向的でマニアックな趣味が共通だったりする。それぞれのグループは同じ教室にいて存在を認識しながらも、交わらない。イジメとも違う。対立とも違う。声をかけあうことはあっても、あくまで「外」国人としての扱いだ。
この階層構造、ヒエラルキーを「スクール・カースト」という。
筆者は「スクール・カースト」と言う言葉を映画「桐島、部活やめるってよ」(2012・吉田大八監督)で初めて知った。学校のトップグループの中心にいたバレー部のエースで学校一の美人の彼女がいる「桐島」が突然姿を消す(映画には最後まで登場しない)。
動揺して桐島を探し回るトップグループやその彼女たち。その中の一人・宏樹を東出昌大(映画デビュー作)が、その騒ぎに無関心な映画部(カーストの底辺グループ)の部長役・涼也を神木隆之介が、それぞれ演じた。映画はラスト近くの宏樹と涼也の対話でクライマックスを迎える。
その神木隆之介が、この「学校のカイダン」で、天才スピーチ・ライター雫井彗(しずくい・けい)を好演している。冒頭のナレーションも神木の声だ。
生徒会長の役目を押しつけられた地味な女子高生・春菜ツバメ(広瀬すず)が、車いすに乗った雫井のスピーチ原稿を手に入れ、言葉の力によって学校に革命を起こす。
車いすの天才と彼のコーチングで動く女性ヒロインという設定は、米ドラマ「ダーク・エンジェル」でのマックス(ジェシカ・アルバ)と車いすの博士「アイズ・オンリー」ローガン(マイケル・ウェザリー)を思い出させる。
名門の明蘭学園には、家庭も裕福、ルックスもイケてる「プラチナ8」と呼ばれる8人組の生徒が、学校に君臨し生徒たちを支配する。これに挑戦状をたたきつけたのが、「特別採用枠」(トクサー)で転校してきた春菜ツバメ(広瀬すず)。ツバメの演説は、回を追うごとに、スピーチによって、底辺グループの生徒会を動かし、プラチナ8を切り崩していく。
16歳の広瀬すずの芝居は、上手いのか、下手なのか、筆者にはよくわからない。
ただ、大事なのはこのドラマを観ている中高生あるいは小学生が胸を打たれたかどうかだ。一歩間違えば、学芸会の一人セリフのような甲高い声の演説が、なぜか、次第に胸を打つ。

「人に嫌なことをしてる時って、なぜか笑ってるよね。おかしいことなんか何もないのに。笑うことで安心していたのかな」

「誰かの命令じゃなく、自分中心で動いてみてもいいんじゃないかな」

この「~かな」という語尾は、自分にも自信のない少女が大勢の生徒の前で精いっぱい何かを伝えようとするときの言葉として、広瀬の声の高さや言い方と相まって、効果的に使われている。
教頭役の金時平男は生瀬勝久。学園ドラマの教頭役といえば、校長の太鼓持ち、生徒や熱血先生に厳しいが小心者、と相場が決まっている。その憎まれ役は、夏目漱石「坊ちゃん」の赤シャツあたりからか。もはやわが国の伝統といってもよい(全国の教頭先生、ゴメンなさい!)。
このドラマも怪優・生瀬のそんなステレオタイプな設定で始まり、このまま進むかと思いきや、途中から変化を見せ始める。
金時が生徒に厳しくなったのは、若き日の熱血教師時代に生徒に裏切られたというトラウマからだった。が、ツバメは、金時を裏切ったはずの生徒たちを訪ね歩き、実は、彼ら・彼女らが、金時の言葉や行動のおかげで、卒業後、夢をあきらめず、あるいは、新たな生きがいを見つけていた証拠を集めてくる。ツバメはついに教頭の心まで揺さぶった。
一方、理事長兼校長の誉田蜜子(浅野温子)は、言葉で学園に革命を起こそうとするツバメを、かつて知っていた雫井慧に重ねる。二人の間には因縁があり、この謎解きが終盤に向けてのヤマとなる。
ツバメの役は、当初、能年玲奈のはずだったが降板した、という噂がネット上をにぎわせた。真偽のほどはわからないが、急遽抜擢された広瀬すずは、ツバメの役そのままに震えながら女優の階段を登り始めた。
「登れない階段はない!」という天才スピーチ・ライター雫井彗の言葉に動かされるように。
 
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