<テレビの危機>森三中・黒沢かずこは「テレビ局は自分たちの給料カットしてでも面白い番組作ろうよ」と言った

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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6月11日放送のフジテレビ系「とんねるずのみなさんのおかげでした」で、「フジテレビの危機」に対するトークが繰り広げられた。
石橋貴明(とんねるず)は総論に終始していてあまり聞くべきものはなかったが、森三中の黒沢かずこの発言は、具体的で的を射ていた。
ぶちまけたテレビ業界の現状への不満。フジテレビの社員プロデューサーに対しても、

「空気の流れ良くしないわけ、フジテレビって」
「全体的にテレビのことを考えてないんだよ」
「自分たちの給料カットしてでも、もっと面白い番組作ろうよ、ってならないの」

と本音を言った。
芸能人にまでこういった雰囲気が伝わっていることに驚く。「自分たちの給料カットしてでも、もっと面白い番組作ろう」という発言はぐさっと刺さるだろう。この発言をカットしないでそのまま出すのは、番組プロデューサーの矜恃だ。これをもっと上層部が許しているとすれば、いずれフジテレビは復活するのではないかと思う。
かつて、テレビには湯水のようにお金があった。筆者はその最後の頃に派遣のADとして、テレビ屋人生を始めた。ADでも昼ご飯にステーキののったどんぶりとフランスの海鮮鍋のセットを食べた。もちろん全て経費であり、個人でお金は払うことはなかった。
尊敬する社員プロデューサーは、社員ADに対して、

「お前らは、仕事も出来ないのに、仕事の出来る派遣ADの何倍もの給料をもらっているんだ。派遣ADと一緒に行動するときは一切金を出させてはいけない」

と指示していた。ロケに行くと社員にはロケ日当という手当が出た。プロデューサーは派遣ADに、「お前たちはなくて可哀想だ」と、いくばくかの小遣いをくれた。
しかし、テレビも次第に金回りが悪くなって行く。すると、制作費が削られてゆく。そのときは、

「金がないと言うな。金がないところは工夫で何とかなるはずだ。工夫をしていないだけだろう、何とかしろ」

と言われた。それでも当時は何とかなった。「世界一制作費がないテレビ局」というコントをつくったこともある。
しかし、1990年代に入って「バブル」がはじけた。予算削減のためだろう、正面玄関のエレベーターを一機止めたテレビ局があった。その当時の筆者は、

「テレビは見栄でやっている商売なのに貧乏くさいことをするのは逆効果だ」

と、思った記憶がある。
テレビに金がなくなっても、有名芸能人のギャラは下がらなかった、逆に高くなった。テレビ局は当時「ランク」というものがあって、無制限にギャラを上げることが出来なかったが、制作プロダクションが他との競争に勝つために一発勝負に出て大物芸能人のキャスティングに破格のギャラを出した。ギャラはテレビ局も含めて底上げされた。
テレビに金がなくなれば、一番先に予算が削られるのは、文句を言えない弱いところからである。先ほどの黒沢発言にある「自分たち(社員)の給料カットしてでも、もっと面白い番組作ろう」は、実は、そう簡単には実現しない。組合があるからだ。
組合は経営側の失策だと責める。組合と対立関係を生みたくない経営側は給料を下げられない。また、仮に給料を下げられたとしても、その金を制作費に回すことは難しい。
テレビ局は昔から派遣労働に頼ってきたが、この派遣労働における低賃金はいま、本来社員で採用していた枠にも及びつつある。テレビ局は持ち株会社の本社以外に、傘下に制作プロダクションをつくり、そこでの採用に切り替えようとする傾向にある。本社よりは低い賃金体系が組まれる。
派遣労働だろうが何だろうが、金がもらえないが何だろうが、かつて、テレビには夢があったので、テレビでのし上がろうという才能がひしめいていた。それは、残念ながら今は、ごく少なくなった。テレビは夢を売らなくなったのだ。
普通の会社で、それまでの事業モデルが崩れてきて新たな事業で立ち上がろうとするときはどうするのだろう。筆者の元にも時々「今期の配当は見送らせていただきます」という報らせが来ることがある。
つまり、経営者は株主への配当を見送り、その金を原資に新しい事業をたち上げようとするわけだ。その事業に妥当性があると思えば株主は株を持ち続けるだろうし、思わなければ売り払う。
これは個人株主の場合であって、大株主なら「なぜ配当をしないのか」と経営陣に厳しい説明を求めるはずだ。こうすれば配当が出せるだろう、「出せ出せ」との提案さえするはずだ。もし、この大株主が銀行だったりした場合は、融資をするから配当を続けたままにしなさいと言うかも知れない。
ただし、融資の条件としてリストラと現経営陣の退陣を主張するかも知れない。いつ頃から日本の会社がそうなったのかは知らないが(「昔からそうだったんだよ、バカ」と筆者は言われたことがあるが)、株式会社は株主の利益を最大限にするために運営されているのである。
これをテレビ局の場合に当てはめてみた。
テレビ局という株式会社は株主配当を少なくして、制作費に回すことなどはあり得ないだろう。
 
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