<現場を分からないプロデューサーたち>テレビ業界の人材不足が抱える粗製濫造プロデューサー問題

社会・メディア

高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]

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4月になると新入社員が入って来る。すると良いテレビマンになるためには? ということを良く聞かれるようになる。
そう聞かれて考えてもみれば、これといった早道は無いような気がする。よく言われるのはテレビ局と番組制作プロダクションでは育て方が違うということである。昔風にいえば、テレビ局は士官教育をやり、プロダクションは下士官教育をやるといった類だ。
テレビ局は自分でやることを教えるのではなく人にやらせることを教えている。プロダクションは自分でやることを教え、人にやらせることは教えられない、ということである。
「だが待てよ」という気もする。本当にこれが実際なのかという疑問がわいてくる。
多くのプロダクションで行っているのは現場対応力を教えることだ。常識を教え、テレビの造り方の手順を教える。士官教育みたいなものはあまりやっていない。やったところで、「何を偉そうに」ということになってしまう。必要なのはやはり現場力である。
ではテレビ局ではどうなのか? ということになるが、やはり現実を理解させることから始まる。必要なのは現場力だ。そして、問題なのはそれから先だ。
現場の仕組みを教えることで、戦力になるプロデューサーが育つか? ということである。ADの仕事をこなし、コーナー・ディレクターになり、少しずつ出来るものを増やしていく。このやり方で今後必要な戦力なって行くかということである。ここが難しいから士官教育と呼ばれる。
番組を仕切るプロデューサーは何より必要だ。数多く採用できればその中から育ってくる人はいる。競争というのが一番の教育だ。ここが難しい。這い上がってくるのを待つ余裕がない。だから人を使うことを教えることになる。これはともかく必要だ。
テレビ局にも現場力を備えた人は出てくる。ただ、現実問題として、出てきてもその数は足りない。
ではプロダクション的な育て方をすると有能なプロデューサーが育つか? という次の疑問がわいてくる。下士官と士官に例えれば下士官教育から有能な士官が生まれるか? ということである。
かつて、ラジオ出身のプロデューサーがいた。テレビの下士官教育は受けていない。こういう方は多かった。そして多くの番組を作り出した。
あるラジオ出身のプロデューサーとテレビの番組を一緒に作っているときに何度も揉めたことがある。時には酒も入り大声の怒鳴り合いみたいになったこともある。そのとき、かのプロデューサーがよく言っていた。

「だったら自分で作ってみろよ、とは絶対言うな」

自分ではテレビの番組を作る実践を積んでいない。困難を乗り切る方法を知らない。だから、自分でやってみろといわれても方法を持っていなかったのだ。
このことの意味は結局「理不尽を認めろ」ということになる。「現場の現実感を言っていたら何にも出来なくなるぞ」という注意として聞くべきかも知れない。
だが、現実には理不尽であっても、それをやるのが現場だろ、ということになる。そのときはそんな横暴な考え方があるか、ということになるが、後で考えると納得するところもある。
今、テレビ局ではAD教育を受けた人がプロデューサーになるのが待ちきれなくなっている。ともかく現場の指示命令者にならなくてはならないのだ。番組の数だけプロデューサーが必要なのだ。だから現場のことがわからないプロデューサーがどんどん輩出される。
だが、これは大きな問題ではないような気がする。このようなことは、かつてもあったことなのだ。パートナーに現場力のある人間を起用すれば良いだけのことだ。
ラジオから来たプロデューサーは大型番組を数多く作り出した。何より好奇心があった人だった。それを現場に投げ続けた。ノンフィクションが地味といわれ続けた時代に、ゴールデンタイムに進出する大きな手がかりを作った。これを見れば、テレビの現場教育を受けたかどうかはあまり関係ない。
新しい企画はある意味理不尽でなければ出来ない。それまでのやり方をどこか変えなければならない。問われるのはそちらのほうだ。路地裏で戦う能力ではない。
問題は今「競争が減ってしまった」ということだろう。番組の数だけプロデューサーを養成しなければならないということが優先される。かつて現場力の無いプロデューサーが競争に勝ちに行くためには様々な苦労が必要だった。好奇心もそう、人付き合いもそう、現場に文句を言われない迫力が必要だった。
かつてプロダクション的な教育ではプロデューサーが育ちにくいといわれた。プロダクションには無駄ができない、金がかかるからだ。
今、現場がわかるプロデューサーの数が減った。しかし、現場がわかるプロデューサーはまだいる。だからそこに仕事が集中している。
必要なのは現場に口を出すプロデューサーではなく、理不尽でも良い、新しいアンテナを張るプロデューサーだろう。現場に穴が開きそうなら、路地裏の戦いを知っているパートナーを探すことだ。それはまだまだ数多くいる。
 
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