<視聴率6.6%の惨敗番組に寄せられた賛辞>TBS「私の街も戦場だった」が物語る今のテレビの現実
高橋秀樹[放送作家]
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筆者は、3月9日TBS系で、夜9時~11時4分放送の「戦後70年 千の証言スペシャル『私の街も戦場だった』」の構成を担当した。視聴率は6.6 %であった。結果から言えば、惨敗である。客観的に見ても、番組のクオリティは高かったと思う。しかし、内容や評価がどうであれ、これがテレビの視聴率の現実である。
放送翌日、筆者はこれまで体験したことのない経験をした。
5人の優れた視聴者、つまり、我々(メディアニュースサイト『メディアゴン』(http://www.mediagong.jp)」が言うところの「テレビ見巧者」から直接の電話、あるいは、メールを頂いたのである。日々の仕事をルーティンでやっているテレビ屋にはこういう反応は得難い経験である。
その内容を以下にご紹介する。まず、香川県在住の郷土史家、柴川淳一さん。テレビに関しては素人、一般の視聴者である。
「 妻が『八王子空襲のテレビ番組が今夜あるけん!』と言って予約していた。どこも、東日本大震災の特集で、どちらも日本人にとって大事な事やけど、見るほうにしたら、テレビもラジオも新聞も週刊誌も同じテーマしかやらないので疲れる。不謹慎だが、飽きてしまう。
そこへ『ガンカメラ』でしょう。初めて知った。初めて見た。そういうことを知らずに死ぬところだった!(注・番組ではガンカメラに収められているのは米軍機が日本各地を機銃掃射した映像を扱った)
腕をなくしたご婦人。 謝罪したいと泣く元米軍人。 「ついでに標的」にされたことを見抜いていた民間人。 列車に機銃掃射を受け姉を失った妹。 初めて知った。そういうことを。
小学校のときの担任教師がこんなことを言った。 『日本は戦争に負けてアメリカの子分になったんですよ』。子供の私は耳を疑った。 (えっ?センセー、今、なんて言うたん? 本気?)
戦争は大勢の人の心に深い傷を負わせ、命を奪う。戦争は悪だ!誰でも知っているが、戦争について多くの人が知らされていないこともある。知らないことのほうが多いだろう。百人いれば百人の戦争体験と悲しい思いがある。百万人いれば、百万人の戦争体験と悲しみがあると思う。
そういう意味で、『私の街も戦場だった』は良かった。佐藤浩市さんのナレーションも取材も良かった。子供や高校生への語りかけも優しくてすごくよかった。 アメリカ取材中の通訳さん[注・これは実はディレクターの宮本晴代さん]も可愛かった。
画面に写らないスタッフさんの気合も熱意もひしひしと感じられた。 田舎の義母は、 「母さんも戦時中、空襲があって汽車に乗って命がけで買出しに行った。涙が出たわ。」と言っていた。 妻は、以前から、ずっと見たかったテレビ番組だったそうだ。テレビを見てこんなに胸を打たれたことはないといった。
息子は『いろんな映画俳優がいるけど、佐藤浩市さんは別格なんや。調布の撮影所の食堂で飯食ってるのを見かけた時、この人は常住坐臥『佐藤浩市』なんやと思った』と言ってた。 テレビを見直したわい」
続いて、日本を代表するテレビドラマ・プロデューサー、TBSの貴島誠一郎さん。
「この時期、この仕事、最高でした!泣きました。住友洋介(注・番組チーフディレクター)も竹村健太郎(注・番組ドラマパート監督)もいい仕事しましたね。」
直接電話をくださったのは、文藝春秋出身のTBSプロデューサー高田直さん。
「ご無沙汰してます。用事でもなんでもないんですけど、昨日の番組よかったんでそれを伝えようと思って」
そして、大手制作会社OBの両角敏明さん。
「すなおでありながら説得力のある構成、見事だったと思います。そしておそらく良いスタッフがそろっていた(注・チーフ演出・山岡陽輔、精神的支柱・真木明、ディレクター・菅野浩司、大分放送・堀公一、タフネゴシエーター・高橋史子)のだろうと思います。見ごたえのある番組をありがとうございました。おつかれさまでした」
最後にTBS・OBの杉山広司さん。
「素晴らしい番組をありがとう。久方ぶりにTBSらしい、いい番組に出会えて、嬉しいかぎりです。今のテレビに欠けているのは『真情』です。人が人に送り届ける真情です。番組スタッフの皆さんの真情はしっかり届いてきました。それが何より嬉しかったです。
過去のことを振り返るのは、未来のためであって、だからこそ、恨みつらみに引きずられてはならない、そのことがとても平易にまっすぐに届いてくる番組でした。最後の米兵を取材していたスタッフたちのそんな思いこそが彼らの真情を自然に引き出していたのだと思います。このことは簡単なようでいて実は至難なことです。
TBSらしい番組であったこと、何だかとても誇らしい気持ちになりました。 そんなわけで、メールをしたくなった次第です」
視聴率6.6%の惨敗番組に寄せられた賛辞は、今のテレビの何を語っているのだろう。
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