<中森明菜『紅白歌合戦』出演の謎>その謎を解き明かしてしまったNHKの密着ドキュメンタリー

テレビ

高橋秀樹[放送作家]
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パリ郊外で、人質を取って立てこもる風刺新聞社を襲って12人を射殺した容疑者兄弟。現場から生中継する映像を、筆者はNHKの『ニュースウォッチ9』で見ていた。1月9日金曜日の夜のことである。
見終わると、いつもならテレビ朝日の『報道ステーション』に変えるのだが、どのみち冒頭は膠着状態のパリのレポートだろうと思ったので、そのままNHKを見ていた。
すると、中森明菜の歌声が聞こえてきたので、筆者は吸い寄せられるようにテレビの前のソファに座って離れられなくなってしまった。『紅白歌合戦』に中森明菜を出演させることで、NHKは何を狙ったんだろう、という疑問がずっとくすぶっていたからだ。
そして、その番組は、そんな筆者の疑問を解決してくれそう気がしたのである。番組のナレーションも「レコーディングの現場にいたのは私たちのカメラだけだった」と誇らしげである。見ようと思って見た番組ではない。だから、次に表記する新聞の番組欄も後で夕刊を引っ張り出して確認したものである。

中森明菜” 歌姫復活”
紅白裏側完全密着SP
復活までの苦悩と決断
LAで素顔&本音告白
最新カバーも披露

もちろん、『紅白歌合戦』は、その年にヒット曲を出した歌手が出演するのが主旨だろう、という批判はすまい。そのモデルはとうに崩れている。
では、中森明菜の出演は、ただ、サプライズを狙った演出だったのか。そうとばかりは言えないのではないか。何らかのメッセージを込めたのではないか。そんな勘ぐりが筆者にはあった。なにしろ、中森明菜は、2010年10月に体調不良で芸能活動の無期限休止を発表以後、公の場へ一切姿を現していない。
それで、この密着ドキュメンタリーに何らか答えの一端が表現されるのではないかと思い、ずっと見てしまった。番組は大晦日の紅白本番までを、靴選びや衣装選びから追う。中森明菜のディスコグラフィを紹介する。明菜自身のワンショットインタビューが挿入される。ごく凡庸な構成である。
番組は、12月31日の中継本番に向かって時系列で進んでいくのみだ。そして、大仰なナレーション。

「交渉を重ね」
「明菜本人の出演が決まったのは本番2日前だった」

スポーツ新聞の「明菜紅白出演」を知らせる大見出しのインサート。結局、筆者はがっかりした。「紅白で復活」というシナリオを描いたのはNHKではないか。そのシナリオが実現したのは事実であるが、これはNHKの自作自演による事実にすぎないのではないか。
中森明菜の紅白への出演は、「サプライズを狙った演出だった」ということがこれでわかった。それでも、非難するつもりもないし、非難されるべきことでも無い。エンターテインメントなのだから。
ダメなのは筆者がつきあわされてしまったドキュメンタリーの方だ。民放のようなことはおよしなさい、と筆者は言いたい。
 
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