<テレビ業界には「枠」がある>異変?!今年の7月ドラマにジャニーズがいない。


両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

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テレビ業界には「時間枠」をはじめいろいろな「枠」があります。たとえば、テレビでは丸山明宏、いまの美輪明宏さんから始まるのでしょうか「オネェ枠」みたいなものが連綿と続いています。現在はマツコ・デラックスさんがトップですかね。

「ガイジン枠」も切れ目なく続いています。若い方はご存じないかもしれませんが、テレビ草創期にはロイ・ジェームス、E・H・エリックさんなどが活躍されていました。いまはデーブ・スペクターさんでしょうか。

この他「おバカキャラ」とか「毒舌」とかいろいろな「枠」があるようです。

以前、若手女優の売り出しにかかっている中堅芸能事務所のベテランマネージャーに会った時のこと。

「主演級の若手女優はたくさんいるから大変ですね?」

と聞いたら、

「男優に比べれば楽ですよ」

という返事。

このマネージャーさんから見れば、テレビドラマには男優の場合は「ジャニーズ枠」というようなものがあり、主役の多くがジャニーズ系のタレントさんで埋まってしまうので、非ジャニーズ系の若手男優が主役になるのはとても大変だというのです。それに比べれば女優の方はジャニーズ系がいない分だけまだ競争率が低い、ということなのでした。

そんなことを思い出しながらこの7月〜9月期のテレビドラマを視ていて、あれっと思いました。主役にSMAPもTOKIOも嵐もいないような・・・。厳密に調べたわけではないので違っていたら申し訳ないですが、今期ドラマで主役を張っているジャニーズ事務所のタレントさんはただ一人、テレビ朝日系「刑事7人」に主演する少年隊の東山紀之さんだけのようです。

主な脇役で見てもフジテレビ系「リスクの神様」のV6・森田剛さんぐらいしか見当たりません。単なる偶然で、来期以降またジャニーズ枠がぐーんと広がるのかもしれませんが、窪田正孝、菅田将暉をはじめたくさんの非ジャニーズ系若手男優がグングンと台頭してきているのは確かなような気もします。

その昔、筆者が学生の頃。ヒマはもとより珍しく少々お金も持っていたので、銀座日劇地下の日劇ミュージックホールに入りました。ここはいわゆる「ヌード劇場」です。ダンサー陣も選りすぐられていました。ベテラン女優の春川ますみさんやあき竹城さんはここの出身です。

場末のストリップとは違いますが、客は女性のハダカが目当てであることは変わりません。ダンスの合間にコメディアンが登場してコントなどを演じていましたが客にとってはトイレに行ったり一息入れるところであまり舞台に注目はしません。

この日も、なんだかさえないオヤジ二人が出てきてコントを始めました。ドタバタとした、銀座風というよりはあきらかに浅草風の、今で言えばベタなコントでした。

最初は、「早く引っ込め! ハダカを見せろ」というような気持で見ていたのですが、これがおもしろい。彼らは舞台中を縦横無尽に駆け回り、飛びはね、徐々に客席全体がこのコントに引き込まれて行き、ついには大爆笑で沸き返るようになったのでした。彼らが袖に引っ込んだ時の客席のため息。「ああおもしろかった」というあのため息を忘れることができません。これが初めて見たまだ無名の「コント55号」で、後に名作と言われた「マラソンコーチ」だったのです。

しばらくして「コント55号」はテレビに出始めました。しかし最初はうまくいかなかったそうです。彼らは舞台の端から端まで自由奔放に動き回ります。それも相当なスピードで。だからこそおもしろいのですが、これにテレビカメラは追いつけず、マイクは声をひろうことができません。

彼らのコントは当時のテレビの「枠」に収まらなかったのです。しかし、妥協したのは彼らではなく、テレビの方でした。

リハーサルやカメラ割りなどで彼らの動きを制約することをやめ、カメラは引きで全体を撮ることを基本にスポーツ中継のように対応しました。ワイヤレスマイクなど実用でなかった音声は袖から袖までたくさんのマイクを並べて動き回る彼らの声をつかまえました。

「コント55号」がテレビの「枠」に収まるように演じたのではありません。テレビの方が「コント55号」の規格外のコントが、収まるよう工夫して「枠」を広げたのでした。

はじめて「コント55号」を見てから10年ほどたったある夜、渋谷の劇場で初めて「ツービート」を見ました。所属する太田プロが開催した所属タレントのネタ見せ会ですが、かなり大々的なもので、1階は一般客で超満員、2階はプロデューサーやディレクター、放送作家などテレビを中心にギョーカイ関係者で溢れかえっていました。当時の「ツービート」はいくらか世の中に出始めはていましたが、まだブレイクしてはいません。

この日の「ツービート」は抜群でした。1000人は入ろうかという大劇場が揺れるほどウケまくったのでした。もちろんあの毒舌ネタで。

「ツービート」の漫才が終わると休憩でロビーに出てきたギョーカイ関係者はいずれも興奮冷めやらぬ体で絶賛、絶賛、大絶賛です。しかし、二言目にはまるで合い言葉のようにこうささやきあっていました。

「でもテレビじゃ無理だよね・・・」

「赤信号、みんなで渡れば怖くない!」とか、お婆さんや山形県をきつくいじったネタは、とても破壊力抜群の面白さだが、テレビの「枠」には収まらないと多くのギョウーカイ人が感じていたのです。

しかし、それから1年。「ツービート」は見事にブレイクし、あの毒舌漫才はテレビで堂々と演じられていました。テレビの「枠」の方が「ツービート」を受け入れるものに変わったのでした。

昨今、ギョーカイでは「○○枠ねらい」なんて言葉を聞くことがありますが、とびきりすごい才能はとてつもない爆発力を持っていますから、既成の「枠」などには収まらないのかもしれません。

テレビ業界の「枠」など吹き飛ばすどんな怪物が次にあらわれてくれるのか、それを楽しみに首を長くしながらテレビを視ています。

 

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両角敏明

両角敏明(もろずみ・としあき)テレビディレクター、プロデューサー。 バラエティ、報道、情報、すべての番組を手がけてきた。