「1億総活躍社会」は今年の流行語大賞に絶対なって欲しくない言葉?

政治経済

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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「1億総活躍社会」というのは官僚が考えそうな、そして、「それいいね」と、安倍首相が言いそうな、実にセンスのないスローガンである。
「プロパガンダは娯楽の顔をしてやってくるもの」であるが、娯楽の顔さえ装っていない生硬な言葉である。毎年この時期、「流行語大賞」のノミネートが話題になり始めると、絶対に大賞を取って欲しくない言葉というのが見つかる。
例えば、1998年おっぱいが売りの笑いのコンビらしき女子コンビ・パイレーツの「だっちゅーの」であった。他の芸人がこれ以上の言葉を生み出せなかったのも情けない。
「これがすごい!」と思われるのも笑いを業とする者が馬鹿にされたようで不愉快だった。でも結局、大賞を取った。大賞を獲るとテレビで繰り返し放送されるからそれがまた腹立たしさを増殖する。
今年はどうか。「五郎丸ポーズ」であろう。にわかラグビーファンが蔓延して、どこの忘年会でもこのポーズをしている上司に拍手をする・・・といったお追従を見せられるかと思うと今年の年末は酒を飲みに行くのやめようかとさえ思う。
では、「1億総活躍社会」はどうか。安倍首相が会場に賞状をもらいに来るという確約があるなら是非大賞をあげて欲しい。
「1億総活躍社会」は当初すぐに「一億玉砕」や「一億火の玉」が連想される言葉だとして、糾弾された。テレビを見ていると「一億総白痴」になると言われたりしたし、日本国民の大多数が自分を中流階級だと考える1970年代の「一億総中流」というのもあった。
中流とはお手伝いさんを常時ひとりは雇っておける家庭のことを言うのだという反論もあった。「一億総中流」は、人並みと言うくらいの意味で使われた。
「1億総活躍社会」について、11月10日の朝日新聞「わたしの紙面批評」で湯浅誠氏(2008年・年越し派遣村の村長という説明が一番わかりやすいだろう)が、興味深い論考を書いている。

(以下、引用)「(『1億総活躍社会』について)安倍総理は『若者も高齢者も、男性も女性も、困難な問題を抱えている人も、また難病や障害を持った人々もみんなにとってチャンスのある世界をつくっていく』と訓示した。個人をターゲットに『さらにがんばってもらう』とは言っていない。(略)朝日はこの部分を翌日の朝刊で報じなかった。私はそのことに違和感を覚えた。権力監視はジャーナリズムの主要任務だが、それはただクサすこととはちがうだろう」(以上、引用)

湯浅氏の論考は「1億総活躍社会」において安倍首相が言葉通りのことをやっていくかどうかこれからマスコミは注視していくべきである。と言う意味を含むと筆者は理解した。
この「1億総活躍社会」を共生という言葉で実現しようとしている人々もいる。
人種も、性別も、性同一性障害の人々も、障害者も、宗教の違いも、金持ちも、貧困な者も、政治信条の違いもすべて乗り越えて、共に生きていこうとする社会が共生だ。英語ではインクルージョン(Inclusion)という。
筆者は少なくとも「1億総活躍社会」が安倍首相のいう意味と同じなら『共生』と言う言葉の方が好きである。言葉としてのインパクトは全然無いけど、真実には大抵インパクトは求められない。
以下、蛇足としての戯れ言としてお読みいただきたい。「1億総活躍社会」の中の言葉を入れ替えていろいろな言葉をつくってみた。

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