アメトーークの名企画「パクりたい-1グランプリ」と「絵心ない芸人」

テレビ

高橋維新[弁護士]
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2016年2月21日放映のテレビ朝日「アメトーーク」は通常と異なり、日曜日に2時間スペシャルという形で放映。前半は「パクりたい-1グランプリ」、後半は「絵心ない芸人」という構成。いずれも、過去に放映されたことのある人気企画である。
<パクりたい-1グランプリ>
「パクりたい-1グランプリ」は人のギャグをどんどん取り入れてアドリブで好き勝手に暴れるザキヤマ(山崎弘也)とフジモン(藤本敏史)が、見ていて楽しい。
パクリ元をきちんとズラしていけるのも彼らの強みである。例えば、今回の出場者がやった中で「解せぬ~」というフレーズを繰り返すネタがあったが、2人はこれを変えて「カンヌ~」「スザンヌ~」などというズラシを入れていた。
AMEMIYAの歌ネタも、途中でメロディはそのままに、歌詞だけテツandトモのなんでだろうに変えていた。
本番で、アドリブでこういうズラシを入れられるようにすればテレビ芸人としては一流であろう。
事前に考えたネタをずっとやっているだけでは、いつまでたってもブレイクスルーはできない。パクられる側の芸人は、全体的に大人しく、事前に自分たちで考えた台本から外に出ない者が多かったが、こういう大舞台なのだからザキヤマやフジモンなみのズラシを心掛けてほしいものである。
もちろん、この2人の挙動を楽しむ企画なので、フリの役割を果たす「パクられる側の芸人」がこの2人なみに暴れ始めると趣旨が撚れていく。そのため、番組側は恐らく「自分のネタだけをやれ」と指示しているとは思う。ただ、その指示を破れる奴が売れていくのがこの業界である。
<絵心ない芸人>
絵心のない芸人が描いたヘタクソな絵を笑う典型的なケナシ回である。今回は、プロ野球選手の前田健太(マエケン)も絵心がない側で参加していた。
メインコンテンツは絵そのものなので、これを順に見せていくだけでもある程度の笑いは生まれるのだが、この笑いをもっと高めるために大事になっていくのは、やはりフリとツッコミである。
この企画のボケは、ヘタクソな絵である。これに対応するフリは、描き手の、「自分は絵がうまい」「この題材だけはうまく描けている」などという「上手い絵」を想起させる発言である。
この発言を最初に放り込んだ後にヘタクソな絵が出てくると、当初の発言との対比で「ヘタクソ」というズレが際立ち、笑いが起きやすくなる。そういう意味で、事前の発言は「フリ」なのである。
今回は、芸人のみならず、マエケンもこのフリの発言ができていたのが非常によろしかった。芸人連中は、フリが大事だというのが理解しているはずなので、自分の絵がヘタだという自覚があっても、敢えて自信満々にフリの発言をしなければならないというのは分かっているはずである。そのため、このフリができて当然である。
ただ、そのあたりが分からないはずのマエケンも自分の絵に自信を持っていることを感じさせる発言を何度もしていた。しかも、単純に「自分は絵がうまい」と発言するだけではなく、「野球は普段やっているから(野球の絵は)描ける」などときちんと理由付きで真実味のあるフリができていたのである。
これは、スタッフや芸人が事前に指示をしたか、本当に自分の絵はうまいと思い込んでいるかのどちらかである。
次にツッコミは、要はヘタクソな絵を言葉を尽くしてイジる営みである。これは、宮迫・バカリズム・川島とイジる側にも実力派が揃っているので申し分がなかった。
このイジりに対して、絵心ない芸人たちも「違う」と怒ったり、ヘタクソな自分の絵を正当化するための妙な理屈を並べたてたりして喧嘩をすると更に笑いが生まれるのだが、それもできていた。それは、絵心ない芸人にも徳井・陣内・礼二と実力派が揃っているからである。
総じて、出来は非常によろしかった。ただ今回も2つの企画の間で内容がぶつ切りになっており、どうせなら関連性を持たせた方がもっと良くなったのに、と思わずにはいられなかった。
それは、複数の企画で構成される長時間スペシャルのアメトーークを見たときにはいつも覚える感想である。ただ、今回は単体の企画がいずれも良かったので、それほど気にはならなかったというも確かである。
 
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