<更地ベスト~SAKURA~>大森カンパニーの舞台で体感「劇場が波打つ笑い」


メディアゴン編集部

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劇場で波打つ笑いを体験したことがあるだろうか。

銀座のヤクルトホールでコント55号の舞台は波打つ笑いに包まれていた。まず客席の前方から笑いが起こる。そこに中段から笑いがかぶる。最後に最後方から笑いの波が押し寄せる。笑いは、波のように重層になって押し寄せるから決して途切れることはない。

渦巻く笑いもあった。小劇場「渋谷ジァン・ジァン」(1969〜2000)の「東京乾電池」公演、柄本明、高田純次、ベンガル・・・。収容200人未満の典型的な前衛小劇場である。

内部は狭く、舞台の左右に観客席があるという変則的なスタイルが特徴で、文字通り「アンダーグラウンド(地下)」にある、前衛舞台芸術の発信地として機能していた。

笑いは客席をぐるぐる回るように渦巻く。ここを好んだアーティストは多い。

ユーミン、中島みゆき、吉田拓郎、井上陽水、浜田省吾、五輪真弓、忌野清志郎、泉谷しげる、チューリップ、六文銭、矢沢永吉、宇崎竜童、甲斐バンド、長谷川きよし、雪村いづみ、ヨネヤマ・ママコ、淡谷のり子、美輪明宏、浅川マキ、坂本龍一、矢野顕子・・・。

渋谷ジァン・ジァンはなくなってしまったが、このジァン・ジァンのような劇場でやらせてみたいと思うのが東京ヴォードヴィルショーの分派活動、大森カンパニーの「芝居コント」である。

「芝居コント」とは、演出・出演の大森ヒロシの造語で、芸人ではなく、役者がやるコントと言うことである。

そんな「芝居コント」が現在、下北沢シアター711(収容80人)で上演中だ。大森カンパニー公演「更地ベスト~SAKURA~」(3月29日〜4月3日)。同カンパニーのこれまで11回の公演は、笑い好きの間で熱く支持されてきたが、「更地ベスト~SAKURA~」その中から、文字通りベストを選んでの再演である。

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波打つ押し寄せる笑い、渦巻く笑い、そして、彼らの笑いを形容すれば「海底火山の噴火の笑い」だ。

ところで、演出を務める大森ヒロシに提案したみたことが2つある。ひとつは、

「客は入る。もっと大きな劇場でやってみないか」

である。大森カンパニーをもっと売り出すにはたとえば本多劇場(収容386人)のような「下北沢劇場双六上がり」のような舞台がふさわしい。世の中のムーブメントのひとつに成り上がるには本多劇場がいい。

本多劇場は現代の渋谷ジァン・ジァンにあたる。最先端の劇団しか公演出来ない本多劇場を満員にした大森カンパニーには相応いと思えるからだ。しかし、大森の答えは「NO」であった。その理由は、

「小劇場用に作っているものだから」

もうひとつの提案はこうだ。

アメリカのインダストリアル・ロックバンド、ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)は、2008年のアルバム『ザ・スリップ』(The Slip)の全曲を公式HP上で無料ダウンロードを可能にした。その作戦は、まず、曲をより多くの人に知ってもらう、ということ。

それで興味を持ってくれた人たちがチケット代を払ってコンサートに来てくれる。自分たちはそこで稼ぐ、というビジネスモデルだ。そういう形を、大森カンパニーも考えられないか、という提案だ。

公演を映像ででも見れば、少なからぬ人たちが興味を持ち、実際に劇場に足を運びたくなるはずだ、その力を大森カンパニーは持っている、とこれまでの公演から確信できる。

それに対し大森は、

「うーん、なるほど」

とは言った。大森はそれをどう感じ、どう動くは本人のみぞ知る、だ。(が、多くの人を劇場に足を運ばせる様々な仕掛けの実現を期待したい)

さて、そんな「更地ベスト~SAKURA~」。大森ヒロシの演出の手の平の中で、女優・及川奈央が、SETの久下恵美が、落語家の柳家東三楼が、かんのひとみが、横山清崇が、渡辺亜実が自在に動く。もちろん、ベテラン山口良一は余裕で存在感を示す。特に良いと感じるのは浅井星光が演じるヤクザの姐さんだろうか。

本来、コントとは、最初の設定の段階で「あ、コレはウソだ」と思われては失敗である。突飛な設定ほどそれを感じさせてはいけないものだ。しかし、この公演でオムニバスで演じられるコントは、役者の力でそれをネジ伏せているから、すんなり中身に没頭できる。

芸人のコントにありがちな嘘くささがない。出演の彼ら彼女らは、やはりコメディアンであり、ヴォードヴィリアンであり、俳優であり、女優であるのだ。

舞台の芝居を見たことがない人たちにこそ、劇場に足を運び、お金を払って見てほしい「笑い」だ。

 

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メディアゴン 編集部

メディアゴン編集部(めでぃあごんへんしゅうぶ)2014年5月末日、東京生まれ。メディア批評・メディア評論に特化したメディア専門家によるメディアニュースサイト。キー局プロデューサー、ディレクター、イベントプロデューサー、放送作家、大学教授、評論家、ゲーム作家、弁護士・・・などなど、メディアの第一線で活躍する人材が活動中。