<政治的な圧力はあるのか?ないのか?>テレビ各局・夜のニュースキャスター全員に聞く

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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NHK、民放地上波5局、BS、それぞれのニュース番組のキャスターが朝日新聞のインタビューに答えている。まずは、この企画を記事にした朝日新聞の記者に敬意を表したい。本稿では、すべてを比較してまとめてみる。
<登場キャスター>

  • 河野憲治 NHK ニュースウオッチ9 もと国際部長 局員 54歳
  • 村尾信尚 日本テレビ ニュースゼロ もと大蔵官僚 フリー 61歳
  • 富川裕太 テレビ朝日 報道ステーション アナウンサー 局員 40歳
  • 星浩   TBS ニュース23 本朝日新聞政治部記者 フリー 61歳
  • 大江麻理子 テレビ東京 ワールドビジネスサテライト 局アナ 38歳
  • 市川紗椰 フジテレビ ユアタイム ファッションモデル フリー 29歳
  • 寺島実郎 BS11 未来先見塾 多摩大学学長 69歳

以下記事の内容をまとめるが、記載のない項目は記事中に該当する発言が記録されていなかったからである。記事掲載前にキャスターはゲラ(印刷前の記事内容)をチェックしていると思われるが、それこそ何を取り上げるかは記者の編集権上の判断である。なお、以下は要約であることをお断りしておく。
<外部や権力からの圧力について>
河野(NHK)「僕たちの現場で外から圧力を感じたり、萎縮して忖度することはありません。公共放送の記者であることを自覚して『これ以上やると偏る』と、自分の中で調整して仕事をしている。ジャーナリストは表現の自由の関わる問題には過敏であるべきです」
村尾(NTV)「キャスターの端くれである僕が外部からの圧力を感じたことは一切ない。圧力を感じて自分たちの意見を曲げるとか、発言を控えたことは1回もありません」
<放送の公平中立について>
富川(ANB)「しっかり取材するという基本をもとに、現場の声を伝えていけば、萎縮する必要もない。例え誰かが気にくわない話であったとしても、それが真実。胸を張って堂々と伝えていきます」
星(TBS)「視聴者にとって、何が公平かはジャーナリストや番組の制作者が考えること。政府が発表したものを平等に論評すると、全体的に政府側に有利になる。だから、政治権力に批判的なスタンスでいることは大事なのです」
大江(テレ東)「政治的公平性について絶対的な定義をすることは難しいが、伝える側が慎重になる義務はある。公平かどうかを判断するのは見ている方たち。ジャーナリストはデマゴーグ(煽動的民衆指導者)になりやすい(マックス・ウェーバー『職業としての政治』)ことに自覚的になる」
市川(フジ)「政治的公平性はそもそも存在しないと思う。誰かが判断するのはおかしい。私が育った米国でも放送の公平原則『フェアネス・ドクトリン』は廃止されました。チャンネル毎に左、右と分かれていても、視聴者にはそれを理解するだけの能力はある」
寺島(BS11)「政治家は本能的に報道を何とかしようとする方向に向かうでしょうが、それで腰砕けになっていたのでは、報道ともメディアとも言えない」
筆者の考えは市川氏にやや近いが、日本の視聴者に左、右と分かれていてもそれを理解する能力があるかどうかには疑義がある。日本の人は染まりやすいという危険があると思う。
ところで、筆者は「キャスターは言葉である」と考える。言葉を持たねば人は何ものとも思わない。
<放送で使う言葉について>
河野(NHK)「『これから議論が本格化しそうです』ような時は、ほとんど何も言っていないに等しい。不偏不党を考えてこれ以上言えないときの演出上の手法です。もっと自分の言葉に現場感を持たせたい。キャスターは自分の意見を言っていると思われがちですが、僕の場合はそうではない。記者が集めた情報のから、補足すべきものを自分お言葉にして伝えています」
村尾(NTV)「コメントは自分で原稿を書き、スタッフと相談して決めます。もうひとつ気をつけているのは『翻訳能力』です。歳入歳出は収入支出、国債は借金と言い換えます。霞ヶ関の用語でそのまま使ったのは『集団的自衛権』だけです」
大江(テレ東)「親近感を武器に出来るキャスターがいても良い」
市川(フジ)「話し方は硬くせず、上の方から、伝えるよりも一緒に話す感覚で、身近な距離感を大切に」
<番組の向かう方向>
河野(NHK)「日々のニュースで両論併記ばかりやっていたら面白くないし何を言いたいか分からなくなる。ある日に一つの意見、また別の日に反対意見というようにバランスの取り方は色々ある。NHKの9時のニュースでそう言っているんだから、と納得してもらえるようにならないといけない」
村尾(NTV)「若い人たちが選挙で投票してくれれば世の中は変わる。若い人が見るニュースが必要だ」
富川(ANB)「『人に寄り添う』のが報道だ」
星(TBS)「映像に頼りすぎている。甘利明・前経済再生大臣の会見もそう。涙で潔さをアピールした。イメージでスキャンダルを乗り越えようとする権力側の意図を感じました。記者はそのことに気づいてもっと追及しないといけません」
大江(テレ東)「身近なところから(経済を中心としたニュースの)流れを示せるのが理想だ」
市川(フジ)「私と似通った世代は、テレビ離れが進んでいる。この層はテレビなどの大手メディアに不信感を抱いている人が多い気がする。メジャーなものへの抵抗感も感じる。テレビにサブカルチャー的な要素を取り込み『自分で発掘した』と思えるようなニュースを紹介したい」
寺島(BS11)「日本の報道番組は『ショー化』してしまい、分かりやすい方向にばかり進んでいます。しかし、世の中には難しいこともある。深く議論しなければ見えてこないテーマもある、ニュースをちぎっては投げ、ちぎっては投げしていても結論は出せません」
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インタビューは難しい。「話し手(キャスター)が言いたいことたくさん持っている人の記事は充実した内容である」ことだけではインタビューは優れたものにはならない。
キャスターの力量を評価しに行った側面もあると思うが、逆に聞き手(この場合は記者)の力量も試されていた、というのが記事を読み比べての感想である
総じて、「外部や権力からの圧力はない」と答えているが、本当にそうだろうか。プロデューサーや現場記者がキャスターに配慮して圧力を伝えないようにしているの側面があるのではないか、と筆者は思う。
スポンサーからの圧力はないのか。官僚がご説明と称してテレビ局にやってくることはないのか。政治家と取材目的以外で直接会うことはないのか。それらをどう思うのか。
キャスターはやはり視聴率が取りたいのか。星氏の言葉を借りれば、記者はもっと追及して欲しかった。その場合は漢字は「追及」ではなくて、「追求」だろうなあ。
 
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