<報道の危機?>政権に及び腰の「お行儀よすぎる記者会見」の常態化に危惧

社会・メディア

上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]
***
既に何度か拙稿で指摘してきたが、フリーランス記者として私が参加する閣僚記者会見を見る限り、記者たちの質問が相変わらずピリッとしない。国民目線に立って権力に目を光らせる、つまり、安倍晋三政権の問題点を厳しく追及する姿勢が感じられないのである。 
<なぜか沖縄県議選関連の質問が少なかった外相会見>
例えば、この6月7日。私は、閣議後に開かれた岸田文雄外相と高市早苗総務相の二つの会見に参加した。
まず、岸田外相の会見では、米軍基地の辺野古移設に反対する県政与党が勝利した5日の沖縄県議選の結果や、その沖縄で相次ぐ米軍関係者の事件の根っこにある日米地位協定の問題などを、マスコミ各社の記者たちが当然ながら真っ先に質問するだろうと思っていた。
ところが、最初に挙手した全国紙記者の質問は、米大統領選の民主党候補にクリントン氏の指名が確実になったことへの外相の感想だった。
そこで、私が沖縄県議選の結果の受け止め方と、それにもつながる地位協定の改定に政府が踏み込む意思があるかどうかを確認した。岸田外相は案の定、改定自体には踏み込まず、「運用改善」の範囲内で米側との交渉を取り繕うような説明に終始した。
私が質問しなかったら、だれかが同じ質問をしたかもしれない。実際にNHKの記者からは「運用改善」の実効性を質す関連質問があったが、いずれにせよ、二の矢、三の矢の質問がほしかった。
【参考】高学歴芸能人クイズ番組よりも、国会議員を集めた「政治資金がテーマのクイズ番組」を制作すべき
<安倍政権下で強まる報道の「自己規制」>
岸田会見が終わって15分後に始まった高市総務相の会見では、「公私混同の極み」と強い批判を浴びている舛添要一東京都知事の政治資金支出問題や、甘利明・前経済再生担当相のあっせん利得疑惑の不起訴が示す、抜け穴だらけの政治とカネの問題について政治資金規正法を所管する閣僚としての捉え方を問いただすことが最重要と、私は考えていた。しかし、他の記者はだれもこの問題を質問せず、時間切れで結局、私は指名されなかった。
同会見では、選挙年齢が18歳に引き下げられてから初の国政選挙となる7月の参議院選の準備状況などについて質問が出たが、担当大臣には痛くもかゆくもない問題である。
この2つの記者会見だけではなく、各省庁の担当記者からは「余分な質問をして当局との関係を悪くすることは避けたい」との声をよく耳にする。
たびたびテレビ中継される舛添知事の会見では、厳しい質問も出ているが、目を中央省庁に転じると、政権に及び腰のお行儀がよい記者会見が常態化しているのは否めない。萎縮や忖度(そんたく)など、報道の「自己規制」が安倍政権下でますます進行していることに強い危惧を感じている。
 
【あわせて読みたい】