北海道警察の「マスコミ言論封じ」とそれに「手打ち」したNHK


上出義樹[フリーランス記者/上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ]

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北海道の交番で、女性警察官が着替えなどもする仮眠室を同僚の男性巡査がのぞき見した不祥事を9月上旬に通常のニュース番組で流したNHKに対し、北海道警察が出入り禁止の「処分」にした。

この「処分」問題を追っている地元の月刊誌記者によると、報道発表の対象外の不祥事を交番名を含めて放送したことが、道警側の「処分」の理由らしい。

しかし、「発表情報しか書くな」と言わんばかりの「処分」だけに、記者クラブ内でも道警への抗議の動きが見られたが、その後、道警とNHKの幹部が「手打ち」をし、出入り禁止が解除されたこともあって、処分問題はうやむやになってしまったという。

中央でも地方でも警察権力の情報管理と言論封じの動きが強まる中で、主要メディアはどこも、今回の出入り禁止問題を報じていない。権力監視の使命は一体どこへ行ったのか。

<警察官の不祥事が相次ぐ中で交番の巡査がのぞき見事件>

NHKがのぞき見事件を報じたのは、9月8日。ローカルニュースのほか、全国で閲覧できる記事スタイルのNHKニュースサイトにも掲載された。

同サイトによると、8月中旬、帯広署管内の34歳の巡査が交番の2階にある仮眠室のドアを開けてのぞき見し、女性警察官に気づかれた。巡査はのぞき見行為を認め、被害者に謝罪しているという。

さらに同ニュースは、今年に入って道内の警察官の不祥事が相次ぎ、計13人が停職などの処分を受けていることを指摘するなど、巡査ののぞき見をニュースとして報じた背景に触れている。

【参考】<偶然ではない>小池百合子にまんまと利用されたメディア

<「発表対象外の事案」を最も詳しく報じたNHKを出入り禁止に>

このNHKのニュースを共同通信などが後追いし、地元の民放を含め数社が男性巡査ののぞき見を報じている。例えば、産経新聞は電子版にだけ共同通信の配信記事を掲載しているが、地元の北海道新聞はなぜか今回ののぞき見事件を扱っていない。

そんな中で、道警本部は最初にニュースを流したNHKに対してだけ同本部への記者の出入りを禁止する措置を決めている。

記者クラブの実態などメディアの問題に鋭いメスを入れる北海道の月刊誌「北方ジャーナル」の小笠原淳記者によると、出入り禁止の理由として、男性巡査ののぞき見が警察内の正式な処分や報道発表の対象に該当しない事案であることに加え、NHKが具体的な交番名まで報じたことで女性警察官が特定されてしまい「人権侵害」に当たることも、道警は強調しているという。

ちなみに、産経の電子版には道警監察官室の「公表する事案でなく、コメントはしない」とのコメントが載っている。

<ネットでは警察の隠蔽体質にブーイング飛び交う>

しかし、どう考えても、道警の一連の説明は、言論封じを正当化するための言い訳にしか聞こえない。

ネット上では「大事件でもないのに道警は、身内の不祥事を暴かれて逆切れしている」「警察は犯罪をうまく隠せる警官しか出世できない」など、警察の隠蔽体質と特定メディアの出入り禁止に対するブーイングが飛び交っている。

【参考】<自民党がNHKとテレ朝の幹部を呼びだす珍事>海外メディアも指摘する日本マスコミの不甲斐なさ

<大問題なのに報道も抗議もしないお行儀良いマスメディア>

道警記者クラブの他社の記者からもNHKの出入り禁止をめぐり、道警に抗議すべきとの声も上がったが、記者たちの頭越しに道警とNHKの幹部が「手打ち」をしたため出入り禁止は1週間ほどで解除され、道警への抗議は立ち消えになった。

10年以上前の有名な裏金問題での道警と北海道新聞の「手打ち」にも似た今回の道警とNHKの「手打ち」は何とも釈然としない。さらに問題なのは「出入り禁止」の事実を、当のNHKを含め新聞やテレビがどこも報じていないことである。

ジョージ・オーウェルは小説『1984年』の中で、

「ジャーナリズムとは、報じられたくないことを報じることだ。それ以外は広報にすぎない」

との名言を残している。この言葉を借りるまでもなく、権力の監視は、メディアにとって最も大切な仕事の一つのはずである。

報道の自己規制、自粛、萎縮、忖度(そんたく)・・・。今回の「出入り禁止」問題でもそうだったが、有力情報源に対しマスメディアはどうしてこうもお行儀が良いのか。

主要な報道機関がこんな調子では、あとは10月に発売される「北方ジャーナル」11月号でこの問題を特集する小笠原記者の深掘り記事に期待するしかないようだ。

 

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上出義樹

(かみで・よしき)北海道新聞社でシンガポール特派員、編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大学メディア・ジャーナリズム研究所研究スタッフ