<NHK『生活笑百科』>見ても損はしないが、見なくても一向に困らない番組

テレビ

高橋維新[弁護士]

NHK「生活笑百科」は、見たら見たで損はしないが、見なくても一向に困らない番組である。

法律バラエティの、走りらしい。といっても、法律バラエティといったときに、あと思いつくのは、「ザ・ジャッジ!」と「行列のできる法律相談所」だけである。 いずれの番組も、「こんな事案に法律を適用するとどうなるか」という疑問への回答が主な内容になっている。

当然、疑問や回答自体に意外性がないと、バラエティとしておもしろくはならない。「信号待ちで止まっている車に飲酒運転で後ろから追突してしまったのですが、私は相手の車の修理費を払う必要があるでしょうか」では、番組にならない。どう考えても全額を払う必要があるからである。 「離縁によって養子縁組が終了した後でも、養父と養女は結婚できないのでしょうか」とか、そういうのじゃないといけない。

専門的すぎてもいけない。答えがテレビ尺に見合わぬほど長くなりすぎてもいけない。法律や判例から明確に答えが導き出せないような問いも不適である。あくまでバラエティであって、視聴者は法学部の講義を聞きたいわけではない。

「自己破産事件で民事法律扶助を利用した場合に法テラスが被援助者に対して有する着手金の償還請求権を破産債権として届け出る先生がいるが、さすがにそれはやめてほしい。理論的にこれを否定できないか」とか、誰がそんな話をゴールデンタイムで聞くのだという話である。

でまあ,そんなバラエティ向けの話題が法律の世界にたくさんあるわけではないので、いずれはネタが切れる。ネタが切れた結果、「ザ・ジャッジ!」は終わった。「行列のできる相談所」は、「弁護士も参加しているトークバラエティ」に変貌していった。 そんな中で、ずっと同じことをやっているのが生活笑百科である。

「見なくても一向に困らない番組」なので全ての回を見ているわけではないが、絶対に同じような内容の相談を繰り返しやっている。バラエティ向けの法律の話題なんてそう数はないので、その題材を多分もう5周ぐらいはしている。それでも続いている。

なぜか。この点は別にあまり興味がないので、真面目には考えない。 「ザ・ジャッジ!」や「行列」との違いを挙げるとすれば、相談の紹介を再現VTRではなく漫才形式でやっているということと、スタジオのトーク部分にガチガチの台本があるということである。

台本があるのは、見る人が見ればすぐ分かる。演者が、いまいちリラックスしていないのである。台本がない、あるいは薄いトーク番組では、それこそ居酒屋の会話みたいなもので、演者が自然とおもしろいことを言って、自然と他の演者から笑いが起きるのだが、そういう安心感がないのである。

「ザ・ジャッジ!」では,みのもんたと爆笑問題の太田が暴れていた(この2人は台本で縛った方がいいこともあるタイプの演者だが)。「行列」では紳助さんが弁護士も含めて演者をいじり倒していた。視聴者の眼前には、自然と湧き出るおもしろい空間があった。

ところが「生活笑百科」にはこれがない。仁鶴師匠・上沼恵美子・辻本という上方の実力者が揃っているのに、台本でガチガチに縛られている。台本でベタな笑いが展開されるので、意表を突かれるのが苦手な年寄りには受ける。

ところがこの台本もワンパターンなので、この部分でもやっていることは毎週同じなのである。この台本が嫌で、上沼恵美子は降板してしまったのである。

だから、見なくても一向に困らないのである。漫才部分も、トーク部分もワンパターンで、毎週同じようなことをやっているのである。笑点と同じ構造である。

でも、見たら見たで損はしないのである。吉本新喜劇と一緒で、関西人が好きな「お約束」というやつである。仁鶴師匠のやさぐれた司会も、上沼の大ボラも、辻本のアゴいじりも、毎週やっているのでもう見飽きている。だから、今さら笑うようなものではない。

でも、このお約束を見れば、実家に帰ったような安心感と、「俺はこのお約束を知っている番組の仲間だ」という連帯感が生まれる。別稿で説明している、「結紮力」である。

あとはまあ、関東人からすれば、この番組を見ること、知っていること自体が一種のお笑いのステータスになっているという面もあるだろう。もとは関西ローカルの番組なので、関東ではあまり見ない芸人さん(仁鶴師匠・上沼・辻本のほかに、いくよくるよやオール阪神巨人などがいる)を見ることができる。

「毎週見ている」といえば、「おもしろい人」「上方の笑いにも通じた笑いに詳しい人」を気取ることができる。演者のモノマネをすれば、「なんでそこ選ぶかな」というツッコミが入る。笑いの題材として、絶妙なマイナーさと微妙さを持っているのである。

そういう位置づけでも,30年続けば御の字ではないか。

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