<安倍首相、真珠湾で所感>アメリカが日本に強いてくるであろう『限定的寛容』

政治経済

保科省吾[コラムニスト]

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安倍晋三首相は日本時間の12月28日、旧日本軍の真珠湾攻撃の資料などを展示している「真珠湾ビジターセンター」を視察した。

オバマ大統領の首脳会談後真珠湾攻撃で沈没した戦艦アリゾナの上に建つアリゾナ記念館で、犠牲者を慰霊。その後、所感を発表した。謝罪は述べなかった。気になるのは『寛容』という言葉を7回述べたことである。これは何を意味するのか。

<以下、安倍首相「所感」抜粋>

真珠湾に、いま私は、日本国総理大臣として立っています。

アリゾナ・メモリアル。あの、慰霊の場を、オバマ大統領とともに訪れました。そこは、私に、沈黙をうながす場所でした。

75年が経ったいまも、海底に横たわるアリゾナには、数知れぬ兵士たちが眠っています。耳を澄まして心を研ぎ澄ますと、風と、波の音とともに、兵士たちの声が聞こえてきます。

それら、すべての思いが断たれてしまった。その厳粛な事実を思うとき、私は、言葉を失います。その御霊よ、安らかなれー。思いを込め、私は日本国民を代表して、兵士たちが眠る海に、花を投じました。

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オバマ大統領、アメリカ国民の皆さん、世界の、さまざまな国の皆さま。

私は日本国総理大臣として、この地で命を落とした人々の御霊に、ここから始まった戦いが奪った、すべての勇者たちの命に、戦争の犠牲となった、数知れぬ、無辜の民の魂に、永劫の、哀悼の誠を捧げます。

戦争の惨禍は、二度と、繰り返してはならない。私たちは、そう誓いました。

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The brave respect the brave.「勇者は、勇者を敬う」

アンブローズ・ビアスの、詩(うた)は言います。

戦い合った敵であっても、敬意を表する。憎しみ合った敵であっても、理解しようとする。そこにあるのは、アメリカ国民の、寛容の心です。

戦争が終わり、日本が、見渡す限りの焼け野原、貧しさのどん底の中で苦しんでいた時、食べるもの、着るものを惜しみなく送ってくれたのは、米国であり、アメリカ国民でありました。

皆さんが送ってくれたセーターで、ミルクで、日本人は、未来へと、命をつなぐことができました。そして米国は、日本が、戦後再び、国際社会へと復帰する道を開いてくれた。米国のリーダーシップの下、自由世界の一員として、私たちは、平和と繁栄を享受することができました。

敵として熾烈に戦った、私たち日本人に差しのべられた、こうした皆さんの善意と支援の手、その大いなる寛容の心は、祖父たち、母たちの胸に深く刻まれています。

私たちも、覚えています。子や、孫たちも語り継ぎ、決して忘れることはないでしょう。

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リンカーン・メモリアル。その壁に刻まれた言葉が、私の心に去来します。

「誰に対しても、悪意を抱かず、慈悲の心で向き合う」。

「永続する平和を、われわれすべてのあいだに打ち立て、大切に守る任務を、やりとげる」。

エイブラハム・リンカーン大統領の、言葉です。私は日本国民を代表し、米国が、世界が、日本に示してくれた寛容に、改めて、ここに、心からの感謝を申し上げます。

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あの「パールハーバー」から75年。

歴史に残る激しい戦争を戦った日本と米国は、歴史にまれな、深く、強く結ばれた同盟国となりました。それは、いままでにもまして、世界を覆う幾多の困難に、ともに立ち向かう同盟です。

明日を拓く、「希望の同盟」です。私たちを結びつけたものは、寛容の心がもたらした、the power of reconciliation「和解の力」です。

私が、ここパールハーバーで、オバマ大統領とともに、世界の人々に対して訴えたいもの。それは、この、和解の力です。戦争の惨禍は、いまだに世界から消えない。憎悪が憎悪を招く連鎖は、なくなろうとしない。

寛容の心、和解の力を、世界はいま、いまこそ、必要としています。憎悪を消し去り、共通の価値のもと、友情と、信頼を育てた日米は、いま、いまこそ、寛容の大切さと、和解の力を、世界に向かって訴え続けていく、任務を帯びています。

日本と米国の同盟は、だからこそ「希望の同盟」なのです。

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私たちを見守ってくれている入り江は、どこまでも静かです。パールハーバー。真珠の輝きに満ちた、この美しい入り江こそ、寛容と、そして和解の象徴である。私たち日本人の子どもたち、そしてオバマ大統領、皆さんアメリカ人の子どもたちが、またその子どもたち、孫たちが、そして世界中の人々が、パールハーバーを和解の象徴として記憶し続けてくれる事を私は願います。

そのための努力を、私たちはこれからも、惜しみなく続けていく。オバマ大統領とともに、ここに、固く、誓います。ありがとうございました。

<以上、安倍首相「所感」抜粋>

安倍首相は、寛容(tolerance)と言う言葉を7回、口にした。

アメリカが日本を含む敗戦国に示した寛容はヘルベルト・マルクーゼが言う、あらゆる社会的弱者を虐げる権力を容認しない『抑圧的寛容』(repressive tolerance)であり、権力者や、社会的強者の不正に無力な『消極的寛容』(passive tolerance)ではないであろう。

【参考】安倍外交の完全破綻と漂流するTPPのゆくえ

しかるに、今、日本はそのような状態を維持しているか、また、アメリカはトランプ大統領になってもこれを維持しうるか。

これから(これまでもという意見もあろうが)アメリカは日本に対して『限定的寛容』(limited tolerance)を、強いてくるのではないかと筆者は考える。『限定的』とは、政治経済外交、防衛など、すべての分野で要求をしてくると言うことを示す。この限定的な条件を呑む限りにおいてアメリカは日本には『寛容』に接するということである。あm襟加太下ではないかも知れない。ロシアも経済的限定の本に日本に『寛容』を。中国は領土的に。海洋権益的な限定をのめば、日本に寛容をであるだろう。

安倍首相が引用したアンブローズ・ギンネット・ビアス(Ambrose Gwinnett Bierce)は、風刺辞書『悪魔の辞典』の作者でもあるが、そのいくつかを拙訳で紹介してみる

*ABASEMENT(卑屈)

「強大な力を前にしたときのいつものように自動的に出来る適切な心構え」

*ALLIANCE(同盟)

「国際政治において、2人の泥棒が結びつくこと。両者はともに相手のポケットにてを突っ込んでいるので、同盟しなければ、第三者から略奪することができない。」

*PRESIDENT(大統領)

「小集団を率いる人物。この集団の人々のなかには、そしてそういう集団の人々にかぎって、大統領にしたくなるような人物がひとりもいないのは、他の多数の国民が思っている常識。」

*SYCOPHANT(追従者)

「後ろを向けという命令にしたがってみたら蹴り飛ばされた、というようなことがないよう、這いつくばって「偉い人」に媚びる人。」

*WAR(戦争)

「平和という戦略の副作用。もっとも恐ろしい政治的状態とは、万国親善の期間のことを指す。(中略)「平和なうちに戦争に備えよ」とは、一般に言われている以上に深い意味を持つ。」

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