<不安をかき立てる番組を好むテレビ>「超常現象、幽霊体験」でメディアが欲しがる答えは短絡的

社会・メディア

石川幹人[明治大学情報コミュニケーション学部・教授]

***

オウム事件以来(1995年5月、麻原彰晃教祖逮捕)急激に減ったとはいえ、毎年夏になると、テレビ番組の制作会社の方々から幽霊現象、幽霊体験についてのコメントを求められる。幽霊を科学的な研究テーマにしている大学教員が少ないからでしょう。
かく言う筆者は、もちろん、オカルトの信奉者ではありません。それどころか、筆者は大学で、オカルトや似非科学、疑似科学の非科学性、反社会性を説く「科学リテラシー」という講義を長らく受け持っています。
そういった立場である筆者に、ディレクターは、

  • 「どうして、幽霊はここに姿を現したのでしょう」
  • 「なぜ幽霊はこんなに恐ろしいんですか」

と、心霊写真などを示しながら聞いてきます。
それに対する筆者の答えはこうです。

  • 「幽霊が見えたって、全然不思議ではありません」
  • 「幽霊が恐いのはある種の錯覚です」

すると、番組スタッフはとまどいながらも「それはどういうことですか」と重ねて疑問を投げかけてきます。真摯な問いならば筆者も誠意を尽くします。説明は1時間以上にも及び、図解も身振り手振りも使えない電話取材だと、大変な事態が出来します。
終わって、「ありがとうございます」と、一応お礼は言われるものの、番組で私のコメントが取り上げられることはまずありません。その理由はたいてい、「視聴者にはわかりづらい」というものです。
夏に涼をとるのが目的の(それ以外の目的も考えられうるのですが)ホラー番組に「幽霊は不思議でも恐くもない」というコメントは番組の根幹を揺るがしてしまうのでしょう。
制作会社は私とは別の人のコメントを流していました。筆者も「地縛霊かもしれませんねえ」などと番組の意図に合わせたことを言ってあげればよかったのでしょうが、それは科学者の意地が許しません。
そもそも、テレビは「不安をかき立てる番組」を好みます。視聴者の多くが「不安なこと」に敏感なので、そういう捉え方をした方が視聴率も上がるのです。(と、懇意な放送作家が言っていました)
テレビだけでなく映画や出版など、ほかのメディアも同様です。では、私の主張「幽霊は不思議でも恐くもない」のは、なぜなのでしょうか。
それはまた、別の機会に。
 
【あわせて読みたい】