現役弁護士は法廷ドラマ「リーガルハイ・スペシャル2014」をこう観る


水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

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かつては正義感にあふれるエリート弁護士だったのに今は落ちぶれてしまった中年弁護士が、医療過誤事件の被害者の家族から事件を依頼され、事件や依頼者と向き合ううちに次第に正義感に再び目覚め、訴訟で巨大病院とそこを代理する大物弁護士に立ち向かっていく。

「あっ、ポール・ニューマンの『評決』」だ、と思った方は結構な映画ファンか、法廷ドラマのファンである。それくらい、11月22日放送の「リーガルハイ・スペシャル2014」(フジテレビ・以下「リーガルハイ」)は、シドニー・ルメット監督の映画「評決」(1982年)へのオマージュにあふれていた。

ルメット監督が陪審裁判映画「十二人の怒れる男」(1957年)から25年の時を経て撮った法廷映画が「評決」だった。落ちぶれた弁護士フランク・ギャルビン役が円熟期のポール・ニューマン。面白くないわけがない。

これに挑んだのが今回の「リーガルハイ」である。脚本は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した古沢(こざわ)良太。

大森南朋が演じる九條和馬は、元は大手事務所の将来ある弁護士だったが、事務所の不正を許せず告発して独立、それがケチのつきはじめで、今は弁護士バッジをたてにゆすりたかりまがいの賠償金をとってあるくチンピラ弁護士だった。死亡例のある新薬の投与で夫を亡くした中原さやか(吉瀬美智子)からの依頼で、大病院なんかマスコミにばらすと脅かせば金を出すとばかりに暴れる。

病院側弁護士として立ちふさがるのが、勝つためには手段を択ばないハチャメチャ最強弁護士古美門(こみかど)研介(堺雅人)と、その弟子だが性格真反対の黛真知子(新垣結衣)。九條は、二人から「訴訟で結構」と開き直られるやおじけづく。それが夫をこの事件で失ったさやかを見ているうちに、法廷での戦いを決意する。

「なんで俺を選んだ?」と聞いた時のさやかの答。

「あんたもさみしそうだったから」

九條もまた苦労の中で、妻を過労で亡くしていた。

「リーガルハイ」では、敵役のはずの病院側代理人、大物弁護士のコミカドが主役というねじれ。この、ふつうは敵役の方なのに主役、しかもハチャメチャ、なのに最後は説得力ある勝利をしてしまう、というのが「リーガルハイ」シリーズのミソである。

「評決」では、自分を愛し励ましてくれた女(シャーロット・ランブリング)が実は大物弁護士に買収されていて、ギャルビンは絶体絶命のピンチに陥いるが、ギャルビンが陪審員たちに向かって振るった熱弁が奏功して大逆転勝利する。

一方、「リーガルハイ」では、データを持ち出して本件はやむを得ない事故で医療過誤ではないと主張するコミカドに対して、九條は「医は仁術」のはずだ!人の命は何物にも代えられない!データがなんだ!一人一人の人生はどうなる!彼を愛した人はどうなる!と必死に訴えかける。

「評決」のギャルビンは勝ったが、「リーガルハイ」がここで終わるわけはない。古沢良太は、シドニー・ルメットに挑むためにこのドラマを書いたのだ。脚本家もまたここからが本当の戦いだ。コミカドは静かに語り始める。

「赤目院長は、こう言いたかったのではないでしょうか。『医は科学である』と。・・・現代の医療は死屍累々のしかばねの上に成り立っているのです。」

赤目院長が挑んでいたのは、患者に寄り添い患者の遺族と泣くことではなく、その死の上に発展していく医学の未来だった。そして、コミカドはさやかにむかって吠える。

「教えてやるよ!訴えたいなら科学を訴えろ!あなたのご主人を救えなかったのは現代の科学だ!」

自分を代理する九條の熱弁にも泣かなかったさやかが、このときはじめてコミカドをみつめたまま涙を流す。

「そんなこと、できるわけないだろう!」

と九條。そのときコミカドが吠える。

「だったら、せめて狂気の世界で戦い続ける者たちの邪魔をするな!」

判決後、裁判所の前で、負けた九條がさばさばした表情でコミカドと黛に向かって言う。

「あんたら、やっぱりすごいよ。俺なんかとはモノが違う」

九條に背を向けて立ち去るコミカドの表情が引き締まる。コミカドもまた、依頼者のためになりふりかまわぬ弁論で自分にぶつかってきた九條を認めたのだ。その九條が敗訴で傷心のさやかを家まで送る。

ドアノブで指を切ったさやかを見て、九條が言う。

「今度はいくらブンどろうか」

そして、

「・・・お茶入れるよ」

と、笑顔で九條を家に入れるさやか。

-訴訟に負けて得るものがある。依頼者も弁護士も。

一方、「評決」のエンディング。孤軍奮闘の末の勝利に酔うはずのギャルビンが事務所のデスクで一人何かを想う。そこに電話のベルが鳴る。ギャルビンを愛しながら裏切ったことを後悔したローラだ。いつまでも続く電話のベルと、動かない弁護士の表情が、永久に戻れない男と女の距離を暗示する。

-訴訟に勝っても埋められないものがある。依頼者も弁護士も。

 

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水戸重之

水戸重之(みと・しげゆき)弁護士として、映画、音楽、放送、芸能界、スポーツ関連の仕事を25年にわたって続けている。吉本興業(株)監査役、湘南ベルマーレ取締役。早稲田、慶応、筑波の各大学で教壇に立つ。日本人メジャーリーガーの日本側代理人を務める(石井一久、高津臣吾、齋籐隆、福留康介、黒田博樹、川上憲伸、青木宣親、田澤純一他)