<視聴率は統計か?それともマーケティングか?>ビデオリサーチ社は顧客のテレビ局にだけ視聴率を売る

社会・メディア

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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「統計」と「マーケティング」は、どこが違うのだろうか?

「マーケティングは統計の一種なんじゃないの?」

という理解であれば、ほぼ正解。でも、もう少し詳しく説明してみたい。マーケティング(marketing)とは、企業や非営利組織が行うあらゆる活動のうち、

「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動」

の全てを表す概念である。・・・と言う定義ではある。しかし、身もふたもなく言うと「企業がどうやったら儲けられるか?」を調べるための調査のことである。それを調べるために「統計」を使う。
では「統計」とは何か。
統計(statistic)とは、広辞苑によれば、

「集団における個々の要素の分布を調べ、その集団の傾向・性質などを数量的に統一的に明らかに すること。また、その結果として得られた数値」

であるという。思いつくのは「平均○%」というもの。「算数が苦手という人は5年2組の57%」とかである。しかし、この「平均を取るだけでは科学にはなり得ない」と言うことを言っているのも実は統計である。
そしてここからが本題。
テレビの視聴率は「統計」であろうか? それとも「マーケティング」であろうか?
正解は「マーケティング」である。日本の場合、テレビの視聴率はビデオリサーチ社という、たった一社が調査して発表している。この視聴率のデータを買っているのが各テレビ局。つまり、冒頭の定義にあてはめると、

「テレビを見る人が真に求めるテレビ番組を作り、届け、テレビを見る人が、その番組を効果的に楽しめるようにする活動」

ということになる。しかし、「そういう風に視聴率は使われているか?」と思った人は鋭い。視聴率がそういう風に使われることは少ないのが実態だ。視聴率は、

「テレビ局が顧客の求める番組は何かを探り、それを提供するスポンサーの商品の情報を届け、顧客にその商品を沢山に買ってもらえるようにする活動」

に使われいるからだ。テレビ局とて営利企業だからこういう風に視聴率を使うのは当たり前。テレビ局側から言わせれば、

「一生懸命、視聴率を睨んで、みんなが見てくれると思う番組作ってるのに、もっと見ろよ。タダなんだから文句言うな」

と、本音も言いたくなるだろう。逆に、視聴者側からは、

「視聴率が低いってことは、私たちが見たくないってことでしょう。テレビ局の社員は高い給料もらってんだから、もっとましな番組つくってよ」

と言いたくなる。両者の言い分は、一見、“正しくかみ合った意見”のように見えるが、そこに落とし穴がある。両者とも「視聴率は正しいデータだ」と認識している点だ。
ゴールデン、プライム、全日の視聴率が全部トップだったので視聴率三冠王だ・・・と言うような話を聞くことがある。視聴率には誤差があるという話は有名だが、この各テレビ局の視聴率の差に意味はあるのか? もちろん、それを厳密に統計で検定することも、実はできる。
ゴールデンの週間平均視聴率がNHKが8.2%、NTVが9.0%、テレビ朝日が10.2%、TBSが6.0%、テレビ東京が5.9%、フジテレビが5.8%だったとき、そこに有意な差があるのかを検定できるのだ。
しかし、このデータをビデオリサーチ社がテレビ局に関係のない統計学者に提供することはまず、ありえない。なぜなら、そんなことはして欲しくないからである。
ビデオリサーチは一定の料金を取って顧客であるテレビ局に視聴率データを売っている。だから、このデータを利用できるのは、買ったテレビ局だけなのだ。
新聞に視聴率が出るのは「報道引用の範囲」という曖昧な決まりがあるから、それを利用して、どこかで調べて出す。どこで調べるかはわからない。データ提供の料金は知らないが、顧客の迷惑になるようなことはどんな企業でもしたがらないのは当たり前のことなのだ。
 
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