<「クローズアップ現代」やらせ疑惑に「バンキシャ!」の誤報>不祥事があっても番組が打ち切りにならない理由を考える

テレビ

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

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調査報道は「報道の華」である。
報道には、省庁や、都道府県庁、警察・検察の発表、企業からリークなどをタダ垂れ流す発表報道、これらに独自取材を加えて踏み込んだもの、などがあるが、「調査報道」とは、あるテーマ・事件に対し、これらからの情報に頼らず取材者が主体性と継続性を持って調査を行い、自らウラを取り(事実である根拠を確かめることを言う)新事実を突き止めていく報道のことである。報道マンなら是非やりたい、それが調査報道(Investigative journalism)である。
調査報道として最も大切なのはこれが読者や視聴者のために報道するもの、と言う視点である。金もかかるし、日数も必要だ。これを、「報道の華」と言わずして、なんと言おうか。
ちなみに東京スポーツの編集部訓は「ウラを取るな」であると聞いて大笑いしたことがあるが、これは未確認の余談である。
調査報道に力をいれていると思う番組として思い浮かぶのはTBSの「報道特集」。
3月28日の放送では 「『イスラム国』から奪還!最前線の町」と題しての調査報道を放送していた。これは、外部プロダクションによる取材であったが、こうした戦争物が、外部にゆだねられることが多い理由については、本稿では言及しない。
NHKの「クローズアップ現代」は、週に4日の放送。NHKだけに、視聴率が取れないだろうなあと思う内容でも、果敢に挑んでいる僕の好きな番組である。
先日、週刊文春誌上で、「クローズアップ現代」にやらせがあったという悲報が流れた。やらせの疑いが指摘されているのは、昨年の2014年5月14日に放送された「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」。
「出家詐欺」とは、お寺で得度(出家の儀式)を受ければ戸籍上も法名への変更が可能となる制度を悪用したもので、宗教法人と結託して多重債務者を別人に仕立て上げ、ローンや融資を騙し取る詐欺の手口のこと。
番組は、滋賀県の寺を舞台に実際に起きた詐欺事件の概要を報じた後に、出家詐欺が社会に蔓延している現状をリポートした。大阪社会部の記者が出家詐欺のブローカーの事務所を突き止めてインタビューを行い、事務所を訪れた多重債務者とブローカーの会話を隠し撮りしたシーンを放送。
記者は、事務所を後にする多重債務者を追いかけ、路上で直撃インタビューも試みている。だが、番組でブローカーとして登場した人物はこう証言した。

「私はブローカーでもありませんし、出家詐欺に携わったことも一度もありません。番組に登場するブローカーは架空の人物で、NHKの記者に依頼されて私が演技したものです」

NHK広報局は、次のように主張する。

「今回の番組は、十分取材を尽くして制作したものであり、やらせやねつ造があったとは考えていません」

NHKの言うとおりであって欲しいと願わずには居られない。
日本テレビの「真相報道 バンキシャ!」も、そのタイトルに恥じぬ真相を調査報道する姿勢には好感が持てる。毎週日曜日、視聴率も「笑点」の直後の放送だけにベストテンの常連である。この番組にもかつて、不祥事があった。
経緯は以下のようなものだった。
2008年11月23日の放送で、建設業者の男が出演し、岐阜県の土木事務所が架空工事による裏金を捻出していたと証言。しかし、これを岐阜県が調査したところ、証言内容が虚偽だったと判明する。2009年2月27日、日本テレビ関係者が岐阜県に対し謝罪し、2009年3月1日の放送で訂正・謝罪放送を行ったというこのだ。この訂正放送自体も内容が不十分だったとして、後にBPOから勧告を受けている。
つまり、「真相報道 バンキシャ!」は、真相でなく誤報を流したのである。これを知った時、筆者は、

「ああ、番組は打ち切りになるな。それほどの重大不祥事だ」

と思った。しかし、番組は終わらなかった。責任をとる形で当時の日本テレビ久保伸太郎社長が辞任し、プロデューサー・報道局長など関係者の処分が行われたが、番組は継続したのである。トカゲの頭としっぽは切った、ということか。
「真相報道 バンキシャ!」は、プロの目で見るとわかるが、ほとんど司会者のアドリブは、許されていない。福澤朗キャスターも夏目三久アナも、台本通りのことしか話さない。
コメンテーターへの質問もあらかじめ決められた台本通りの言葉を発するだけである。これほど管理された番組であるから、不祥事には人一倍ナーバスなはずである。潔く打ち切るという選択肢が、あったはずである。でも続く。その理由はなんだろう。

  1. 番組の視聴率がよいから。打ち切るのはもったいない。胆力のある営業マンが、企業イメージを損なうとクレームをつけるスポンサーを説得して引き留めたから。
  2. 誤報は、番組の構造的な問題ではなく、以後、気をつければ番組自体は正常化すると、上層部が考えたから。
  3. 社長が辞めたのだから,みそぎは済んだろうと考えたから。
  4. そもそも、自浄作用などないから。
  5. 人の噂も75日、視聴者も忘れるだろうと、とみくびったから。

これらの理由、もちろん調査報道ではあろうはずもなく、あくまでも筆者の推測である。筆者は「視聴者もみくびったから」に一票。
今回はたまたま「真相報道 バンキシャ!」を例に考えたが、他の番組についても視聴者はみくびられぬようにすることが必要だ。
民放の場合、「無料で見ている」と、思いがちだが、そんなことはなく、スポンサーが番組を提供するお金は私たちが買う商品に乗っけられているのである。
 
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