<悩み多い障害者の就職>障害者雇用の問題は視聴率が取れないから民放のテレビニュースで報じられることはほとんどない
保科省吾[コラムニスト]
障害者雇用の問題が民放のテレビニュースで報じられることは、ほとんどない。視聴率が取れないからである。だから、企業が従業員の2%、つまり100人いたら、2人の障害者を雇用しなければならない決まりがあることなど、知っている人は少ないだろう。これは障害者雇用促進法による決まりである。
そもそも障害者というのはどんな人たちだろう。
(1)身体障害者
- 健常者から見れば見た目で分かる障害なので、理解しやすい。盲目の人の対策が進んでいるのはこの理由にもよる。人工肛門をつけた人、腎臓病で透析を受けている人もこの範疇である。ただし高次脳機能障害で、自分の左半分は見えないなど、見た目で分からない人もいる。
(2)精神障害者
- 統合失調症(旧・精神分裂病)大うつ病、双極性うつ病などの人がこの範疇である。
(3)知的遅れのある人
(4)発達障害者
- 自閉症スペクトラム、学習障害(LD、注意欠陥/多動性障害〈ADHD〉の人たちである。見た目では分らないことが多い。知的障害を伴う人もいるが、知能には全く問題のない自閉症者はこれまでアスペルガー症候群と呼ばれ区分けされていた。だが昨年、アメリカ精神医学会の診断マニュアルが改定され、アスペルガー症候群の診断名が消えて自閉症スペクトラムに統合された。重い自閉症と、アスペルガーでは対処法が全く違う部分もあるので、この統合に異を唱える人も少なくない。
以上の中で(1)身体障害者は「身体障害者手帳」、(3)知的遅れのある人は「療育手帳」、(2)精神障害者(4)発達障害者は、「精神障害者保健福祉手帳」取得して初めて、障害者の雇用枠で就職試験を受けることができる。
(2)精神障害者、(4)発達障害者の2者が、同じ精神障害者保健福祉手帳であることは、弊害がある。発達障害者は精神の病気ではなく、脳の器質障害である。今のところ治す方法はない。厚生労働省は発達障害独自の手帳を作ることを検討している。
これらの障害者が、就職を相談するところは高校や大学のキャリアセンターなどと呼ばれる就職課である。以下、アスペルガー者の場合の就職相談をシミュレートしてみよう。
学校の就職課にいる職員は、もともと人事に関わる専門家ではない。よって、アスペルガーの就業について詳しい人がいる可能性は少ない。つまり、アスペルガーの専門家でもない人が対応をするので、話がトンチンカンになってしまうはず。頼るなら、アスペルガーのことがわかっている人を指名すべきであるのだ。
自治体が設けているハローワークは頼りになる。ここには、障害者専用の相談窓口があり、基本的にあらゆる障害に通暁している人が相談員になる。だから、話が速い。
相談に行く障害者側にも実は用意がいる。「障害があるからこれはできない」という、ネガティブ情報は、当然配慮してくれるから、そうではなく、「自分はどんな仕事ならできる」など、ポジティブ情報を提示することが大事だ。
「PC操作ができる」「きれいな字が書ける」「英検が2級である」「記録をつけておくのが得意である」「簿記3級である」。できることをやらせてくれる企業を探すのが、障害者の就職である。
アスペルガー者の場合、特別支援学校に進み、就職に有利なスキルを学んできたもの、大学に進んで一般学生と混じって生活してきたものがいる。前者のほうができることを堂々と主張するように教育されており、後者にはその訓練が全くない。
企業の採用担当者から見れば、前者のほうが採用しやすいだろうことは容易に想像がつく。ただ、就職ばかりに価値観を置くのもどうか、という考え方もあるから、どちらがいいかは人生観の問題である。
ハローワーク経由で企業に志望書を提出するときには、精神科医による「どんなことならできるか」を書いた診断書を添付しなければならない。
ここには医者の障害に関する考えが大きく反映する。「二次障害などにならぬよう、就職しないでもやっていけるならそのほうがいい」と考える医者。「就労で自立することこそ、障害者の幸せ」と考える医者。診断書の内容は事前に点検すべきである。
アスペルガー者に向く仕事、などというのが本に載っていることがあるが、アスペルガーの容態は千差万別なので、あまり、重視する必要はない。例えば、ありとあらゆる仕事を、瞬間的な判断でこなさなければならない、居酒屋などの接客の仕事は全く向かないとされる。
が、レジ係ならどうだろう。レジ係でも客は区別しないから、注文されることはあるだろう。その時は『注文です。山田さんお願いします』と応えられるスキルを身に着けていることと、注文は他の人に振るのがレジ係。というルールを従業員が全員が理解していればよいのである。レジ係として、お金の計算をきっちりやるのは「できること」なのである。
そして、もっとも大事なのは、障害者の就職は拙速にならない、ということである。翌年の4月から、遅れて9月から、そんなスローなペースでマッチングする企業を探すことである。
何しろ障害者自身が就職したいという気持ちが盛り上がってこなければ、就職自体無理である。そのためには、時間を十分にとることが大切である。
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