アメリカに有利なTPPに反対する「アメリカ・ファースト」のクリントン

政治経済

保科省吾[コラムニスト]
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民主党の大統領候補クリントン氏が8月11日、ミシガン州の集会で、TPPについて「私は反対する。選挙後も大統領として反対する」と明言した。
これで大統領就任後はTPP賛成に転じるという見方は、はっきりと否定された。共和党のトランプ候補も反対しており、主唱していたアメリカによるTPP承認はきわめて難しい情勢となった。これは日本にとって、千載一遇のTPP見直しチャンスである。
ところで、「アメリカ・ファースト」を唱え、アメリカを世界で一番強い国にしようとしている未来の大統領がなぜTPPに反対するのか。
TPPはもともと、アメリカン・スタンダード(アメリカに有利な米国標準)を加盟国に押しつける協定であり、日本がこれに参加すれば様々な弊害が起こりうる不平等条約である。
アメリカが得であるはずのTPPになぜクリントンもトランプも反対するのか。それはこの程度の条約よりも、もっとアメリカに有利な条約にしたいからである。
ウォール街に近いと言われるクリントン氏は表向きTPPに対し「雇用を減らし、賃金を下げるすべての貿易協定を止める」と、反対理由を述べている。しかし、これは明らかな選挙対策である。労働者層や貧困層の支持拡大を狙っているのだろう。
【参考】<TPPから消された「戦略」の2文字>戦略グローバリゼイションとはアメリカナイゼーションだ
労働者層や貧困層はなぜ、TPPに反対するのか。それはアメリカ、カナダ、メキシコの3国で結ばれた「北米自由貿易協定」NAFTA(1994)の失敗経験があるからだ。
NAFTA において実現するとされた雇用の安定などは全く生まれず、実現したのはメキシコに世界第2位の金持ちを誕生させたことだけだった。NAFTAが利したのは金持ちだけだったのだ。
TPPもまた同じ。富裕層だけが利を得るTPPは、日本にとっても害の方が多大だ。たわわに実る山肌のみかん畑はなくなり、棚田も当然のように姿を消す。
これは日本の農業における惨事だが、TPPの議論を農業だけに矮小化して語るのは間違いで、医療費の高騰、地方の疲弊なども他にも不都合がたくさん起こりうる協定なのである。
だて、クリントン候補の本心はどこにあるのか。それはさらにアメリカに有利な協定にして、支持を得ようというのではないのか。何しろ、アメリカ・ファーストなのだ。
オバマ統領は11月の大統領選後の議会で承認を得たい考えだそうだが、民主共和両党とも、まとまっている訳ではなく、実現しないだろう。
現在の日本の内閣が拙速に決めようとしていた「不平等条約」のTPP。もう承認は致し方ないかとあきらめていた日本の条約締結に、踏みとどまって考える時間が出来たのである。これは踏みとどまるべきである。
 
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