ノーベル文学賞に反応しないボブ・ディランは「本物のロック」だ
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
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ボブ・ディランにノーベル文学賞が授与されることになった。この原稿執筆時点(2016年10月17日)になっても、ディランからは受け取るのか受け取らないのかを含めて何の反応もない。これはすばらしいことであり、嬉しいことである。
なぜなら、筆者は「ロックはすべからく反体制反権力反多数派であるべきだ」と思うからである。もっと卑近な言葉で言えば、ロックはいつも「あまのじゃく(天邪鬼)」であるべきだと思うからである。ロックをロックたらしめているのは「逆張り」だと思うのだ。
1989年にバンド「X」(1992年にX Japanに改名)が、日本有線大賞新人賞を受賞したとき、アナウンサーに「この喜びを一番に伝えたい人が誰ですか」と聞かれて「母です」と答えたとき「ケッ、こいつらロックじゃない」と思ったものだ。
【参考】<整理番号ぐらいでグダグダ言わない!>シーナ&ザ・ロケッツの35周年ライブに見たロックの神髄
2016年のノーベル生理学・医学賞は東京工業大学の大隅良典栄誉教授に授与された。大隅氏はインタビューで、
「基礎研究の重要性を訴え、現状を憂い、そして一億に近い賞金をあげて若手を育てるために役立てたい。これに対してマスコミや首相は応用面のことにしか触れず、文科相は競争的資金の増額というような見当はずれの弁、科学技術担当相に至っては社会に役立つかどうかわからないものにまで金を出す余裕はないという始末。なげかわしい。これでは科学・技術立国など成り立つはずがない」
との趣旨のことを述べている。
つまり、大隅氏はロックだ。
ノーベル化学賞は、フランスのジャンピエール・ソバージュ、英国のJ・フレーザー・ストッダート、オランダのバーナード・フェリンガの三氏に授与された。その速報でNHKのニュースは「ノーベル化学賞 日本人受賞ならず」とのテロップを出した。驚くべきセンスである、この内向きはロックではない。
ノーベル平和賞は、コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領である。この時「日本人受賞ならず」とは、絶対にテロップ表示しないだろう。文学賞の時に「村上春樹、受賞ならず」と出さなかったのは幸いである。
今、日本のテレビは「日本大好き、日本偉い」という視点の番組ばかりだが、このよこ並びはロックではない。
テレビがこれに反旗を翻すことは決してないだろうから、もう、テレビにはロックはない。
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